第6話 幽霊の出るビル

文字数 565文字

 そのビルにはa劇団という劇団のレッスン場が2階に入っていた。
 ビルは壁にヒビが入っていたり、ドアがやけにキィキィと音をたてたりして年季が入っている。

 当時のa劇団はまだ知名度は低かったが、これからの成長が期待できる劇団として演劇ファンの間で注目されているらしかった。
 ビルに清掃現場が代わりたての時は、劇団のレッスン場が入っている珍しさよりも幽霊が出るということの方が私の頭を占めていた。幽霊の話は、清掃チームの人も話していて、実際に見たという人もいた。一人で清掃作業の時は、みっともないが怖がりながら仕事していたと思う。
 
 私も一度仕事中に心霊体験をしたことがある。私以外誰もいないのに「おーい、おーい」と人を呼ぶ声がしたのだ。時間のある時に先輩の女性清掃員に話すと、
「あぁ、それね、ここのチームの人はほぼ全員経験しているのよ。みんな日常的に聞いているからあなたもそのうち慣れるよ。」
とあっさり言われてしまった。始めは信じられなかったが、「今日は草履を履いたおじいさんいたね。」とか「今日は呼ぶ声聞こえたから幽霊きているんだね。」とかいう話を毎日聞いていたら、日常化されて本当にだんだんと恐怖が薄れていった。幽霊が清掃チームのマスコットのように感じられてきたのだ。新しい現場に慣れると共に、ビルの幽霊にも慣れていったのだった。
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