第21話 みにくい

文字数 610文字

 あの飲み会の様子が思い浮かぶ。
 E君の隣にいた女性。あからさまで憎らしい。だけど、私はそのようにいられる彼女が羨ましいのだ。
 
「まあ、素敵な人がいたらお付き合いするよ。」
 E君の言葉。それは、相手が女性であることが前提なのだろうな。
 
「Eには頑張ってほしいと思っている。」
 Iさん、それは私も同じだ。私もE君のことを精一杯応援したい。
 
「Eにはもう近づかないでくれ。」
 Iさん、心配しなくても大丈夫。私はもうE君の近くにはいないことにするよ。でも、それはIさん、あなたに言われたからじゃない。これは自分で判断したことなんだ。私の勝手な、E君を好く気持ちによってE君の役者人生に傷がつくことは避けたい。そんなリスクを持ってE君の側にいないことにするよ。
 
 色んな言い訳を心に並べていた。“怖い”というみっともない自分を隠すための言い訳。そう、本当は怖かっただけなのだ。E君にそんな気持ちを向けている自分が怖いし、E君に拒絶されたら…もう私は砕け散ってしまいそうになる。
 
 心が痛い。世間という大きな単位、その他、余計なところにまでこの痛みが飛んでいってしまいそうだった。
 涙で視界がぼやけて舞台上のE君も良く見えない。私の目や鼻は熱を帯び、意識もぼんやりとしてきた。ステージ上の物語はクライマックスに向けてどんどん進んでいき、劇場の一体感も増していく。それなのに自分だけがこの世界になじめていないような、そんな気がした。
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