第5話 癖の強いやつ
文字数 682文字
欠員が出たという理由で私はとあるビルの清掃チームに次回から加わることになった。
「F君、あのビル担当になったんだってね。それは、それは…。」
担当現場から戻って報告書をまとめていると、同僚が憐みのような目をしながら私に声を掛けてきた。私が何のことだか分からないという顔をしていると同僚は説明してくれた。
「あれ、知らなかったの?あのビルね、出るらしいよ、幽霊…!」
と幽霊の真似をしながら同僚は言う。幽霊の真似というよりは変顔をしているような感じだ。
私はきょとんとした平気そうな顔(多分そんな顔をしていた)をしながら内心は怯えていた。
聞かなければ良かった。知らない方が平気でいられる気がしたからだ。
「怖がっているな。F君、相変わらず表情乏しいけど僕には分かるんだよっ。」
と同僚は語尾を弾ませながら言い、得意げな顔をしながら人差し指で私を指し、まるで探偵のような仕草をしている。
この同僚は表情の乏しい私を相手にしてくれる唯一の人物だった。出会って、一年程だが彼は何かと私に話しかけてくれた。「F君は表情が乏しいだけで悪い奴じゃない。」と言ってくれる。ただ、少し動作がうるさい感じがするのだが。
「聞いてしまったから、少し怖い気分になったよ。どうしてくれるんだ。」
私は不満を言う。彼は「はははっ」と面白がるように笑った。私は邪険にしている素振りをしながらも自分と仕事以外の気軽な会話をしてくれる同僚に感謝していた。
「大丈夫だよ。仕事をするのはF君ひとりじゃない。清掃チームがいるさっ。」
彼はまた語尾を弾ませた話し方をする。その日は同僚の弾んだ語尾がやけに耳に残った。
「F君、あのビル担当になったんだってね。それは、それは…。」
担当現場から戻って報告書をまとめていると、同僚が憐みのような目をしながら私に声を掛けてきた。私が何のことだか分からないという顔をしていると同僚は説明してくれた。
「あれ、知らなかったの?あのビルね、出るらしいよ、幽霊…!」
と幽霊の真似をしながら同僚は言う。幽霊の真似というよりは変顔をしているような感じだ。
私はきょとんとした平気そうな顔(多分そんな顔をしていた)をしながら内心は怯えていた。
聞かなければ良かった。知らない方が平気でいられる気がしたからだ。
「怖がっているな。F君、相変わらず表情乏しいけど僕には分かるんだよっ。」
と同僚は語尾を弾ませながら言い、得意げな顔をしながら人差し指で私を指し、まるで探偵のような仕草をしている。
この同僚は表情の乏しい私を相手にしてくれる唯一の人物だった。出会って、一年程だが彼は何かと私に話しかけてくれた。「F君は表情が乏しいだけで悪い奴じゃない。」と言ってくれる。ただ、少し動作がうるさい感じがするのだが。
「聞いてしまったから、少し怖い気分になったよ。どうしてくれるんだ。」
私は不満を言う。彼は「はははっ」と面白がるように笑った。私は邪険にしている素振りをしながらも自分と仕事以外の気軽な会話をしてくれる同僚に感謝していた。
「大丈夫だよ。仕事をするのはF君ひとりじゃない。清掃チームがいるさっ。」
彼はまた語尾を弾ませた話し方をする。その日は同僚の弾んだ語尾がやけに耳に残った。