第16話

文字数 1,705文字

「……できた!」
 日の暮れる部屋の中、私は一人で大きな声をあげる。
 二十五日。土曜日である今日は講義もなく、私は朝から机を汚して作業をしていた。脳内では幼いころ見た、某子供向け工作番組のオープニングがエンドレスで流れている。
「ねぇ、なにしてるの?」
 朝ごはんのベビーパウダーを食べ終えたケサラさんは、私の周りをうろうろとしている。私は危なくないように手で制した。
「ちょっと待っていてくれ、ゴ○リ」
「もうっ! どこのどいつよ!」
 訳の分からない彼女はぷりぷりと怒って、自分の住みかへと帰っていった。
 私は構わず、黙々と作業をしていく。昼食を食べるのもそこそこに作業を続け、ようやく夕方に完成したのであった。
「わ! もうっ、どうしたの?」
 いきなり大声を出した私に、ケサラさんは飛び起きた。
「ふっふっふっ!」と、声をあげて笑う私を、怪訝そうに見る。
「説明しよう! これは、“外に出ていても部屋にいられる道具”なのだ!」
「……なづけて?」
「……え? 名前は……ない」
「ひみつの道具なのに、ポケットから出したりしないの?」
「……君、私のいない間にどれだけテレビを見ているんだい?」
 私は「まぁ、いい」と仕切り直した。
「これは、君の部屋の簡易版です」
 私は完成品を手で示す。見た目はただの菓子箱であるが、私はその箱の底部分をスライドさせる。引き出しのように箱の外へと底が飛び出てくる。
「このように、床に引き出しを設けることで空洞を作りました。この中に、カイロを入れることで、床暖房になります」
「おぉー!」と、彼女は歓声を上げた。
「お代官様のやつみたい!」
「……菓子箱の下に小判が入っているやつ?」
「そう!」
 違うポイントでかもしれないが、どうやら彼女に喜んでもらえたみたいである。
「更に、部屋の一部に穴をあけて透明なマジックミラーのフィルムで覆っています。ここから外を眺めることが可能になるという秘策なのだよ」
 彼女を出来立ての新居に入れてやる。「中がみえないのに、外がみえる……!」と、不思議そうにフィルムを眺めていた。
「更に更に! 中にはふわふわのタオルハンカチを完備! 壁紙も可愛らしい包装紙で彩っています」
 機能性を重視しつつも、可愛らしさに拘る彼女のお気に召すように私なりの工夫を凝らしたつもりである。
「かわいい! ふかふかっ!」と、部屋の中でキャッキャとしている彼女を見て、私は安心をした。
「じゃぁ、重大発表していいでしょうか?」
 私の言葉に、彼女は遊ぶ手を止めて、ピシッとする。
「今から、バスに乗ってお出かけをします」
「……!」
 ケサラさんはぴょんっと跳ねた。
「そこで買い物をします。君の分のちょっといいベビーパウダーも買おう」
「わぁ……!」
 彼女はさらに高く飛び跳ねる。
「その後で、烏丸にいる加世氏たちを尾行しようと思う」
「……!!」
 彼女は体中のふわふわを震わせた。感情が高ぶっているようである。
「いいのっ? いいのっ!? 一度にそんな贅沢していいのっ?」
 ぴょんぴょんと跳ねてくるくると回る。
「うん、今日はそういう日にしようと思う。……ていうことでいいかい?」
「うん! さんせい!」
 ケサラさんは元気に跳ねて頷いた。
「じゃぁ、これから作戦会議をしよう」
 私は机の上を掃除して、彼女をクッションの上に乗せる。私は時計を見た。もう外は暗く、私も少々腹が減ってきた。
「今から支度をして、まずは烏丸にある京都大丸まで行く。そこで買い物を済ませてから私の食事も済ませる。加世氏たちがCOCON KARASUMAの辺りに来るのはおそらく二十時ごろ。その頃を見計らって、私たちも徘徊する」
 私は朝永からの話を思い出しながら計画を立てる。あんまり早くから外をうろうろとするのも寒いし、菓子箱を持って歩き回るのも変な感じだ。
「君はその箱の中に入って外を見ることになるんだが……、あんまり大きな声だけは出さないように注意するんだよ」
「はーい」と、ケサラさんは素直に返事をした。
「うむ。では、作戦会議を終了とする」
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