プロローグ

文字数 356文字

 「今日、私は朝永という人間を辞めようと思う」
 友人は神妙な面持ちをしていた。
 あぁ、如何してこうまで行き着いてしまったのだろうか。私は目の前の友人に何も返す言葉がない。
 会話の隙間を埋めるように、私はコーヒーをすする。
 「……もう、決めたのか?」
 時間を稼いでも、私の口からは陳腐な言葉しか出なかった。
 「あぁ」
 目の前にいる友人は、苦しそうな表情で答える。きっと私の表情も同じようであっただろう。
 「……後悔はないのか?」
 「あぁ」
 友人の目には迷いはない。この選択以外、眼中にないようであった。
 「……そうか」
 私は再び、コーヒーをすすった。これほどこの店のコーヒーは苦かったであろうか。
 我々は黙って店を出て、別れる。
 この日から、私の友人の朝永は、私の前からいなくなった。
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