第4話
文字数 1,229文字
不思議な出会いから落ち着き、再び日常が戻ってきた。
金曜日、昼休みも終わりに差し掛かったころに私は食堂へと向かう。
午後の講義のない私は、そうして混雑する時間帯を避けて料理を取っていった。会計を済ませて座席の並ぶ方へと向かうと、奥の方で手を振る女性を見つけた。
「加世氏、久しぶりだな。息災か?」
「はいっ! 櫻井さんもお元気そうで何よりです」
元気よく答えた彼女は、私とともに席についた。肩より少し長い髪が、ふわりと揺れる。
四人掛けの席に、彼女と私、そして朝永がいた。私は朝永の横に座る。朝永、そして朝永の向かいに座っている加世氏とともに丁寧に手を合わせ、食事を始めた。
加世氏――風岡加世(かざおか かよ)は朝永の恋人である。二人は同じ高校出身なようで、京都市内の別の大学に通う彼女はこうして時々やってきて、我々と一緒に昼食を食べることがあるのだ。
私は彼女とは大学から知り合ったわけであるが、それでも彼女の奇異さにはしばしば驚かされる。朝六時に恋人を哲学の道に呼び出し、そのまま大文字山に登って山頂でキャンプの如くたき火でコーヒーとカップラーメンを堪能したという話を以前にきいた。その時、「どうしてそのようなことを」と、私が訊ねると、「近所で手軽に山登りができそうなところだったので」と分かるような分からないような返事が返ってきた。しかしながら、火を起こしていることがばれないようにと人気の少ない明け方を選び、わざわざ専門店で挽いてもらった豆を持参したのであるから、立派に確信犯である。彼女なりの論理の下で行動しているのは理解できるが、その行動は誰も理解できない時があった。
加世氏は衣笠丼を頬張っていた。油揚げと青葱を卵でとじたこの丼は京都独自のものであるが、加世氏の大学の食堂にはないのか、彼女は頻繁にこれを食べる。
「最近忙しかったようだな」
「はいっ。週一くらいでこれまで入っていたアルバイト先の呉服屋が、今度新たに着付け教室を始めるみたいで。その準備にかりだされていたんです」
加世氏は私の問いに頷いた。
「なるほど、それはお疲れさまです」
「はい。ありがとうございますっ」
加世氏はにっこりとほほ笑んだ。
「……で、今日は行くのか」
朝永はささみチーズカツを一口つまんでから、ぽつりと訊ねる。今日は金曜日だ。
「うん。もう一区切りついたから、今日は行けそう!」
加世氏は嬉々として答えた。
「……久しぶりだからって、浮かれて飲みすぎるなよ」
「え、私酔っても眠ったり、気分悪くなったりしないよ?」
「……眠りもしない、気分も悪くならないから厄介なんだろ!」
朝永は眉を寄せて、ため息をつく。彼女の厄介な酔い方を思い出してげんなりとする。
加世氏は心当たりがないのか、きょとんと目を丸くさせた。
「いつもの時間でいいかい?」
私が二人にそうたずねると、彼らは同じタイミングで頷いた。
金曜日、昼休みも終わりに差し掛かったころに私は食堂へと向かう。
午後の講義のない私は、そうして混雑する時間帯を避けて料理を取っていった。会計を済ませて座席の並ぶ方へと向かうと、奥の方で手を振る女性を見つけた。
「加世氏、久しぶりだな。息災か?」
「はいっ! 櫻井さんもお元気そうで何よりです」
元気よく答えた彼女は、私とともに席についた。肩より少し長い髪が、ふわりと揺れる。
四人掛けの席に、彼女と私、そして朝永がいた。私は朝永の横に座る。朝永、そして朝永の向かいに座っている加世氏とともに丁寧に手を合わせ、食事を始めた。
加世氏――風岡加世(かざおか かよ)は朝永の恋人である。二人は同じ高校出身なようで、京都市内の別の大学に通う彼女はこうして時々やってきて、我々と一緒に昼食を食べることがあるのだ。
私は彼女とは大学から知り合ったわけであるが、それでも彼女の奇異さにはしばしば驚かされる。朝六時に恋人を哲学の道に呼び出し、そのまま大文字山に登って山頂でキャンプの如くたき火でコーヒーとカップラーメンを堪能したという話を以前にきいた。その時、「どうしてそのようなことを」と、私が訊ねると、「近所で手軽に山登りができそうなところだったので」と分かるような分からないような返事が返ってきた。しかしながら、火を起こしていることがばれないようにと人気の少ない明け方を選び、わざわざ専門店で挽いてもらった豆を持参したのであるから、立派に確信犯である。彼女なりの論理の下で行動しているのは理解できるが、その行動は誰も理解できない時があった。
加世氏は衣笠丼を頬張っていた。油揚げと青葱を卵でとじたこの丼は京都独自のものであるが、加世氏の大学の食堂にはないのか、彼女は頻繁にこれを食べる。
「最近忙しかったようだな」
「はいっ。週一くらいでこれまで入っていたアルバイト先の呉服屋が、今度新たに着付け教室を始めるみたいで。その準備にかりだされていたんです」
加世氏は私の問いに頷いた。
「なるほど、それはお疲れさまです」
「はい。ありがとうございますっ」
加世氏はにっこりとほほ笑んだ。
「……で、今日は行くのか」
朝永はささみチーズカツを一口つまんでから、ぽつりと訊ねる。今日は金曜日だ。
「うん。もう一区切りついたから、今日は行けそう!」
加世氏は嬉々として答えた。
「……久しぶりだからって、浮かれて飲みすぎるなよ」
「え、私酔っても眠ったり、気分悪くなったりしないよ?」
「……眠りもしない、気分も悪くならないから厄介なんだろ!」
朝永は眉を寄せて、ため息をつく。彼女の厄介な酔い方を思い出してげんなりとする。
加世氏は心当たりがないのか、きょとんと目を丸くさせた。
「いつもの時間でいいかい?」
私が二人にそうたずねると、彼らは同じタイミングで頷いた。