第42話 恩返し

文字数 1,368文字

 それから数日後。事件が急展開を迎えた。

浪人殺しの真犯人として、見世物小屋の主人が捕らえられたのだった。

「それがよお、小屋の主が奇天烈な術を用いて、

押し入った浪人共を一網打尽にしたというわけさ」

 新助が、三途川夢幻の元を訪ねて事件の顛末を語った。

「浪人のひとりが息絶える直前に言い残したという

この世のものとは思えないというのは、結局、なんだったのですか? 」

 澪が身を乗り出すと訊ねた。

「小屋の主は、平賀源内が発明したエレキテルを参考にしたと自白した。

雷みたいな光りを発して、からだがしびれるという代物らしい。

職人が、鼠取りを改良して作った仕掛けを盗人相手に試したそうだ。

熊を盗みに入って、鼠取りにかかって死ぬとは前代未聞だぜ」

 新助が苦笑いすると言った。

「わたいはてっきり、白毛の狸の仕業かと思いました。

狸は化ける天才と言いますが、白毛となると、

特別な力があるのではないかと‥‥ 」

 澪が神妙な面持ちで言った。

「人が創り出したあやかしというわけか」

 夢幻がつぶやいた。

「よほど、熊を守りたかったのでしょうね」

 善吉が言った。

「おめぇに渡したいものがある」

 新助が懐を探ると、善吉に告げた。

「何ですか? 」

 善吉が訊ねた。

「出産祝いだ。少ないが、何かの足しにしてくんねえ」

 新助が照れ臭そうに、善吉に出産祝いを手渡した。

「ありがとうごぜぇます」

 善吉が、新助からの出産祝いを両手で受ける取るとお礼を言った。

「女房を泣かせるんでねぇぞ。あっしからだ」

 竜が、善吉のひざの上に巾着袋を置いた。

「竜さんまで、すいやせん」

 善吉が言った。

「わたいからはこれを」

 澪は、夜なべして作ったおしめを差し出した。

「おしめは、何枚あってもありがてえ」

 善吉が、おしめを見つめると言った。

「主さんは? 」

 澪が、夢幻の方をちらりと見た。

「おまえさんの代わりに、白毛の狸を取り返して山に帰した。

その際、かかった費用だ」

 夢幻が、書付を善吉の前に置いた。

「ちょっと、それはないんじゃありませんか? 

お祝いをあげるどころか、請求するなんてあんまりじゃないですか」

 澪が、夢幻を非難した。これでは、お祝いムードが台無しだ!

「よく見ろ。その下に証文がある」

 夢幻が咳払いすると言った。

「なんですか? 」

 善吉はおそるおそる、証文に目を通した。

その直後、なぜか、善吉は涙をこぼした。

「これは、借金を完済したという証文じゃないですか? 

いったい、誰が? 」

 善吉が、夢幻に訊ねた。

「白毛の狸が暮らす山の持ち主が、

白毛の狸を救ったお礼として、

借金を返済出来るだけの金を支払ったわけさ」

 夢幻が答えた。

「これで、家族3人暮らしていけるめどがつきました。

これからは、心を入れ替えて真面目に働きます。

2度と、薬の商いには手を出しません」

 善吉はその場に土下座すると宣言した。

「良かったなあ」

 新助がもらい泣きした。

 澪はふと、視線に気づいて窓の外を見た。

すると、3匹の狸があばら家の中をのぞいていた。

3匹の狸は、澪の視線に気づくと姿を消した。

澪はとっさに、外に飛び出して裏にまわった。

3匹の狸の姿はすでに、はるか遠くにあった。

「ひょっとして、わしらに化けた狸かい? 」

 気がつくと、善吉が隣に立っていた。

「いまごろ、白毛の狸にでも報告しているのではないかい? 」

 澪が言った。


 
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