第6話 口入屋の女主人

文字数 1,394文字

「竜さんに、いったい、何をさせているんですか? 」

 澪が、夢幻に訊ねた。

「今にわかる。それより、おまえさんにやってもらいてぇことがあるんだ。

今から、口入屋へ行って、女中の仕事を紹介してもらいな」

 夢幻が一方的に言った。

「それって、つまり、おゆみさんのいる屋敷に、

女中になりすまして潜入しろと言うことですか? 」

 澪が言った。

「そういうことだ。若くて丈夫そうな

おまえさんならば、すぐに雇われるはずだ。

とにかく、あやしまれねぇようふるまい、

屋敷の様子をそれとなく探るんだ」

 夢幻がすました顔で言った。

「おゆみさんとはすでに、会っています。

女中として受け入れてもらえますかね? 」

「大事ない」

「わかりました。やってみます」

 澪は、危険は伴うが、ちょっと、おもしろそうだと思った。


 口入屋へ行くと、妙に色気がある年増の女がいた。

どうやら、この人が、口入屋の女主人らしい。

「仕事を紹介して頂きたいのですが‥ 」

 澪は、田舎から出て来た娘を装って近づいた。

「年はいくつ? どんな仕事が良いんだい? 」

 口入屋の女主人がけだるそうに訊ねた。

よく見ると、右|頬に、めずらしい星型の痣があった。

「年は13です。出来れば、武家屋敷の女中の仕事がしてみたいです」

 澪が上目遣いで答えた。

「ちょうど、募集しているお屋敷があるよ。

女中として奉公出来るようにしてあげるよ」

 口入屋の女主人が気前良く言った。

「ありがとうございます。それで、そのお屋敷というのはどこですか? 」

 澪が慎重に訊ねた。

「本所の三上様というお武家様のお屋敷さ。ついてきな」

 口入屋の女主人が、おゆみのいるお屋敷を紹介してくれるという。

なぜか、段取り良く事が運んだ。

  
 口入屋の女主人は、澪を三上のお屋敷へ連れて行った。

口入屋の女主人が門前で名乗ると、中から、おゆみが姿を現した。

「女中を連れて来たと主に伝えておくれ」

 口入屋の女が、おゆみに告げた。

「どうぞ、中へお入りくだされ」

 おゆみが告げた。おゆみはなぜか、澪を見ても顔色ひとつ変えなかった。

 澪は、口入屋の女主人の後から客間に入った。

少しして、おゆみがお茶を運んで来た。

「主にあいさつしたら、帰らせてもらうよ。

こう見えて、あたしは忙しいんだよ。

何せ、ひとりで店を切り盛りしているものでねえ。

留守にしている間にも、お客が来ているかもしれないと思うと気が気でないのさ」

 口入屋の女主人が落ち着かない様子で言った。

「あいにく、主は留守にしております。

女中の件でしたら、一任されております故、私が承りましょう」

 おゆみが伏し目がちに言った。

「さようかい? こちらとしては、

紹介料をきっちり、お支払い頂けるのなら誰でもかまわないよ」

 口入屋の女主人が言った。

「いくつか質問させてくださいな。名は? 年はいくつ? 出白は? 」

 おゆみが身を乗り出すと、澪に質問した。

「澪と言います。年は13です。出白は、えーとその。越後です‥ 」

 澪が答えた。澪は、江戸っ子だけど、

主の趣味にあわせないといけないため、越後の出とウソをついた。

「わかりました。この娘を女中として雇うことにします。ご苦労様でした」

 おゆみはそう言うと、口入屋の女主人に紹介料を支払った。

「こちらに、気に入って頂けるよう、まじめに働くんだよ」

 帰り掛けに、口入屋の女主人が、澪の耳元でささやいた。

澪は、「大丈夫です」と小声で告げた。

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み