第48話 みがわり

文字数 1,576文字

「このままにしておいたら、改ざんされた通りになるということですよね? 

つまり、何もしなければ、鷺の親分が、

先太郎さんの身代わりとなり命を落とすというわけです」

 澪が冷静に言った。

「さもあろう」

 夢幻がうなった。

「冗談言っちゃあいけねぇよお。

身代わりで死ぬなんぞ、勘弁してくんねえ」

 幽霊になった鷺の親分が嘆いた。

「こんな所で、嘆いていたところでどうにもならねえ。

何か、阻止する手立てはねぇのですかい? 」

 忠治が、夢幻に詰め寄った。

「あるっちゃあるが、成功の保証はねえ。故に、勧められねえ」

 夢幻が言った。

「なんでもいいから、何とかしてくんねえ」

 幽霊になった鷺の親分がさけんだ。

「遺体はまだ、極楽泉にあるのかい? 」

 夢幻が、幽霊になった鷺の親分の方を見ると訊ねた。

「はあ? それはどうだろう。気が動転して、遺体のことなんぞ頭になかった」

 幽霊になった鷺の親分がぽかんとした顔で言った。

「竜、今から、極楽泉へひとっ走り行って、

鷺の親分の遺体を回収して来い。わしらは、おなつの実家へ行くぞ! 

鷺の親分も、わしらについて来るが良い」

 夢幻の判断により、二手にわかれることになった。


「遺体を回収して、いったい、どうするんでさあ? 」

 忠治が走りながら言った。

「帰るところがなければ、たとえ、うまくいったとしても現世に戻れねぇだろ」

 夢幻が立ち止まると言った。

「どうかしたんですか? 」

 亀次郎が、突然、立ち止まった夢幻を心配して訊ねた。

「行先変更。あちらさんも、遺体を移している可能性がある。

時間がない。現地へ直行だ! 」

 夢幻がそう言うと、再び、早歩きをし出した。

「現地? いったい、どこへ、向かっているのですか? 」

 澪が、夢幻の背中に向かって訊ねた。

(早歩きしているはずなのに、走るより速い。

いったい、どうなってんの? 

主さんって、超人並みの身体能力だってこと? )

 澪は、まるで、地面に足がついていないかのように

風を切る夢幻に驚きを隠せなかった。

「幽霊になって得したことと言えば、

食わずとも腹は空かねえし、寝ずとも良いことぐらいだ」

 澪の隣で、幽霊になった鷺の親分が愚痴った。

「欲が消えて、ちっとは、ましになったか? 」

 忠治がからかった。

 そうこうしているうちに、現地へ到着した。

こたびの舞台にふさわしい(?)閻魔のいる源覚寺だ。

「なんだ、現地というのは、こんにゃく寺かい。なつかしいなあ」

 幽霊になった鷺の親分がつぶやいた。

「なつかしいって、なんだい? 」

 寅吉が足元から訊ねた。

「あっしの実家は、この寺の裏手でさあ」

 幽霊になった鷺の親分が答えた。

「それより、いつまで、猫になってんだい?

 いい加減、人間に戻れよ」

 忠治が、寅吉を見下ろすと言った。

「この方が、ラクチンなんだにゃあ」

 寅吉が言った。

「おなつが昔住んでいた家もここから近い。

‥‥ということは、鷺の親分の実家と

おなつの元家はご近所だというわけか」

 亀次郎が言った。

「おそらく、先太郎は、戸籍を移さないまま、

今は別荘としている実家で息を引き取ったんだ。

ここは、先太郎の義父がいる寺だ」

 夢幻が神妙な面持ちで告げた。

「先太郎とおさとは、幼馴染だったというわけですかい? 

それも、同姓同名の似ても似つかねえ野郎が近くに住んでいた。

偶然が重ならなければ、こんなことにはならなかったわけだ」

 忠治がしみじみと言った。

 寺の境内へ行くと、閻魔が鎮座していた。

闇の中に浮かび上がった閻魔は本物かと思うぐらい、

おどろおどろしく迫力があった。

その閻魔の前に、人影が2つあるのが見えた。

近づくと、この寺の僧とその娘、おさとだった。

澪は、近づいた時に、とっさに、閻魔の影に隠れた

もうひとりの黒い影を見逃さなかった。

裏にまわってみたが、その黒い影は素早く、その場から消えた。

まるで、忍びのような動きだ。


 



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