第56話 相撲部屋

文字数 1,028文字

  翌朝。澪は、明星の様子が気になって、

店に出る前に両国の相撲部屋を訪ねた。

澪が訪ねた時、朝稽古を終えた後だった。

「1歩おそかったわね。

もう少し、早く来れば、稽古に間に合ったのに。

せっかく、来たのだから、朝餉をごちそうしてあげるわ」

 明星が、澪を部屋の中へ招き入れると言った。

「皆、集まって。ダチを紹介するわ。この娘は澪。

両国に小蔵っていう名の一膳飯屋があるだろ。

澪はその店で働いているの」

 明星が、朝稽古を終えて

一休みしていた力士たちに澪を紹介した。

「わたいは、明星姉さんの1番弟子の有明。

左から、夕星・新星・明山。

皆、明星姉さんが見出した力士なんだよ」

 近くにいた1番弟子の有明が、力士たちを澪に紹介した。

皆、はにかんだ笑顔を見せると軽く会釈した。

「うちの部屋は、女相撲の中でも強豪とされているわけさ。

最近は、女相撲を反対する声もあって、

あまり、興行が出来ていないけど、

いつでも、戦えるように稽古だけは、

しっかりやるようにしているんだ」

 明星が、朝餉のちゃんこ鍋を作りながら実情を話してくれた。

「明星さんが自ら、朝餉をこしらえているのですか? 」

 澪が訊ねた。

「うん。わたい以外は、料理に不慣れでねえ。

しょうがなくやっているだけさ」

 明星が苦笑いすると言った。

「わんわん」

 見覚えのある犬が外から吠えた。

「誰か来たみたいね」

 明星がそう言うと戸を開けた。

「ひょっとして、この犬。明星さんが助けた野良犬ですか? 

白犬だったのですねえ。あの時は、

垢や泥で汚れていたから灰色だと思っていましたけど‥‥ 」

 澪が、玄関の中に入って来た白犬を目ざとく見つけると言った。

「あの後、飼うことにしたんだ。最近、何かと物騒だろう? 

いくら、力自慢だからといって、

おなごだけで暮らしているから。番犬にすることにしたんだ」

 明星が、白犬の頭をなでると言った。

「明星。せっかく、朗報を知らせに来たってのによ。無視はないぜ」

 気がつくと、大柄な男が困り顔で立っていた。

「すいません。鶴蔵さん。どうぞ、お入りくださいまし」

 明星があわてて、大柄な男を招き入れた。聞いた話によると、

この(ひと)は、元力士の天星山(てんせいざん)で、

今は、明星たちの部屋の世話人をしているという。

「入門志願者かい? 相撲取るには、小さいしやせ過ぎだねえ」

 鶴蔵が訝し気に、澪を眺めると言った。

「いえ、違います。わたいは、朝稽古を見に来ただけです。

‥‥とは言っても、来た時には終わっていましたけど‥‥ 」

 澪が言った。



 

 
 

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