第51話 蘇生

文字数 1,941文字

「ちょい待ち! あっしはどうなる? 

このまま 見殺しにするのかい? 」

 半透明になった鷺の親分が訴えた。

「時がないんだよ。先太郎は、おまえさんよりも前に亡くなった。

急がないと、間に合わねえ」

 夢幻は、半透明になった鷺の親分を押しのけると、

おさとたちを従えて本堂へ入った。

「鷺の親分。どうか、望みを捨てないでおくんなさいまし。

絶対、わたいたちが、遺体を見つけ出して助けますから」

 澪が言った。

 澪たちが探しに行こうとした時だった。

ふいに、姿を消した亀次郎が、

紫頭巾をかぶった女を縛り上げて引っ張って来た。

「鷺の親分。勘弁してくんねえ。

こいつが、遺体の在りかを知っているにちげぇねえ」

「どこなんですか? 」

 澪が、紫頭巾をかぶった女を問い詰めた。

「知っていたとしても教えるものか。

その方が楽しいからねえ。ヒヒヒヒ」

 紫頭巾をかぶった女がほくそ笑んだ。

「てめえ。何のうらみがあって、こんなひどい仕打ちをしやがる? 

あの時も、突然、目の前に現れたかと思うと、

手先を使ってあっしを捕えさせたが、

いつてぇ、何者なんだい? 前に、どこかで、

あっしと会ったことがあるのかい? 」

 半透明になった鷺の親分が、紫頭巾をかぶった女に詰め寄った。

「あんたなんぞ知らないよ。

あたしはただ、人間が困っている姿を拝むことが好きなだけさ」

 紫頭巾をかぶった女が不敵な笑みを浮かべると言った。

「コノヤロー! ふざけるな! さっさと、教えろ! 」

 半透明になった鷺の親分が、紫頭巾をかぶった女につかみかかった。

「落ち着いてくださいまし」

 澪と忠治が2人がかりで、半透明になった鷺の親分を制止した。

「どうすりゃいいんだよ! 」

 半透明になった鷺の親分がさけんだ。

「お遊びはこれまでだ。いくら、人間が憎いからと言って、

誰ふりかまわず、苦しめても良いはずがねえ。

おめぇがしていることは間違っている。

鷺の親分を苦しめたところで気が済まねぇだろ。

憎しみを晴らすと言うのは、生半可なものじゃねぇわけさ」

 亀次郎が、紫頭巾をかぶった女を諭した。

「薬草園に埋めた。どこかは覚えていない。何せ、暗闇だったから‥ 」

 紫頭巾をかぶった女がつぶやいた。


  小石川の薬草園についたころには、空が白みがかっていた。

急がないと、冥界の門が閉じて、鬼籍が消えてしまう。

澪たちは血眼になって、鷺の親分の遺体を探した。

「あったぞ! 」

 竜がさけんだ。

  大八車に鷺の親分の遺体を積むと、源覚寺へ戻った。

ちょうど、先太郎の蘇生が終わったところだった。

先太郎と入れ替わりに、鷺の親分の蘇生に取り掛かった。

「蘇生を見物するのは、何十年ぶりだろう」

 住職がしみじみと言った。

「その時は、誰を蘇生したのですか? 」

 澪が好奇心で訊ねた。

「はて、誰だったかのう? 」

 住職は白を切ると、澪に微笑みかけた。

「主さんはすごいお方ですよ」

 忠治が感極まったらしく涙した。


 それから数日後。先太郎と鷺の親分は、体力を持ち直した。

ふしぎなことに、2人が蘇生した後、

澪たち以外の人たちは、蘇生前の記憶を失っていた。

時を同じくして、天晴鳥海とおなつ夫婦は元のさやに納まった。

一方、先太郎は、店の仕事に精を出すようになり、

女房のおさとも、亭主の先太郎をかいがいしく支えた。

「あの女の人は、いったい、どこの誰なんですか? 

思い返してみれば、事件が起こる度に、姿を見せていた気がします。

すべては、あの(ひと)が関与していたということですか? 」

 澪が、亀次郎に訊ねた。

「それより、おまえさんのじいさまはいつ、あの世へ旅立つんだい? 

おまえさんがいつまでも、離そうとしない故、

旅立つ機会を何度も逃したみてぇだな」

 亀次郎がなぜか、話をそらした。

「主さんに、相談しようと思っていたところです」

 澪が、夢幻の方を向くと言った。

「昨夜、極楽の門が開いた。

いまごろ、おまえさんのじいさまも旅立ったころだろうよ」

 夢幻が遠い目をすると告げた。

「どうして、教えてくださらなかったのですか? 

お別れが出来なかったじゃないですか」

 澪がくやしがった。

「何も言わず、黙って去りたいと言われたわけさ。

もう、十分、おまえさんの傍にいた。

あとの人生は、おまえさんが背負って行くしかない。

良ければ、ここに引っ越して来るかい? 」

 夢幻が上目遣いで言った。

「ご冗談を。通いだから良いんです。

四六時中、一緒にいたら、おかしくなってしまいますよ。

しばらく、自力で頑張ってみます」

 澪が告げた。

「おまえさんがそのつもりなのなら、何も言わねえ。

それより、助手の方は、今後も続けるつもりはあるのかい? 」

 夢幻が、澪に訊ねた。

「はい。こたびの件で、決意が固まりました。

出来る限り、お手伝いさせて頂きます」

 澪が頭を下げると言った。

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