第49話 4-13 マグフリートの懺悔

文字数 808文字

「心を病んで、障害を負ったハナは」
「リストに掲載される恐れがあります」
「夜と霧の様に姿を消す、かも知れません」
 ハナの消息を心配するステラは昼夜の境なく焦燥に駆られ、不安と悲しみに暮れる。
 アコニテンからの報告を聞いたか、ヴィルヘルムが突如現れるとステラの個室に入る。
 扉を閉めた部屋から響く大きな泣き声、堰を切って迸る言葉が暫く続いて静まると、代わりにヴィルヘルムの低い声がくぐもって漏れ聞こえる。
 全員が注目していたドアから出て来たヴィルヘルムは、明日ステラをカールスルーエに連れ帰ると言う。マグフリートは内密な話があるとして、ヴィルヘルムと奥の部屋へ入った。

 問われたマグフリートは懺悔を始めた。
 病院の火災で、ハナを取り返そうと組み付いた際に言われた言葉に怯んだと言う。聞けば、親衛隊員がユダヤ人のお前ら家族全員を消すなど簡単だ、邪魔するなと言われて手が止まった。自分の家族を思うと怯んで迷いが生じて取り逃がした。
 床に両膝を突いたマグフリートは続ける。
「警護者の仕事を果たせなかった以上如何なる処罰でも受けるので命じて欲しい」
 言葉を待つマグフリートを宥めたヴィルムヘルムは小声で語り掛ける。
「処罰も、無理を言うつもりもないが、危険な任務も請けて貰えるだろうか」
 その提案こそが罰かと目で問うマグフリートに見据えられ、言葉を詰まらせ暫し無言だったヴィルヘルムが口を開いた。
「万一の場合、家族をシュルツ家の庇護に置き、社会的、経済的に困窮させない事を生涯保証する」
 任務の困難と危険を察して貰いたいであろう主人から視線を外さぬマグフリートは、これが失態を晒した我が身の処し方と解釈すると、小さく頷いて告げる。
「シュルツ家が自分の家族を守ってくださるなら、自分はシュルツ家の為に戦う。家族が路頭に迷わない事だけはお願いします」
 ヴィルヘルムは頷き、約束する旨伝えた。
「招致致しやした。この命、旦那様に預けます」
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