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文字数 1,240文字

 サトミは誰とでも親しくなれる性格であり、ヤスオともすぐ打ち解け昔からの友達の様に振舞った。
 三人で過ごす時間はこの上なく楽しく寛げると、ヨシノリは感じた。ヨシノリの部屋で何回か飲み、雑魚寝した事もあった。三人に共通するのは、都会に対する劣等感を持っている事だった。
 ヨシノリの都会コンプレックスは相変わらずで、未だにファミレスには入れなかったし、デパートの店員や電車の対面に座る他人の視線が気になり外出もままならない。都会風の女や都会的なものに対しては憧れを抱きつつも、恐くて近づけなかった。
(自分は、田舎では多少はもてたけど、都会では、カスでしかない)
 との思いに沈みながら鬱々と過ごしていた。
 そういう時すがる様な気持ちで、自分に近い人間を物色するのである。そうして現われたのがヤスオやサトミだったのだ。
 ヤスオとの再開以後、ヨシノリにはヤスオが確実に以前のヤスオから大きく変わっている事に気付いた。
 ヤスオは以前の様な卑屈さもなく、部屋にこもって読書三昧の生活から脱皮していた。明らかに表情からも自信の様なものが漲っている。
「ヤスオ君、なんか前となら変わったよね、明るくなったというか……」
 ヨシノリは、内心羨ましげにヤスオにその事を聞いた。
「そうかなぁ、ただ言えるのは、僕が元々持っていた力を発揮出来る様になった事は事実かもしれないね」
 殆んどドモラず自信に満ちて話すヤスオを、ヨシノリは嫉妬ではない羨望の目で眺めた。
「如何してそんなに変わる事が出来たの?」
 ヨシノリは、率直な疑問を投げかけた。
「実はボク、S会に入信したんだよ。高校の時オバさんの紹介でね。オバさんも、当時のボクが随分暗く塞いでいたし、おまけにドモル事もあったしね。それでボクは、初めは半身半疑だったけれどやってみる事にしたのさ、そのオバさんは親戚の中でも一番好きなオバだったしね。それからボクは段々と活動もする様になったのさ、そうしないと自分の殻も破れないと言われてね。そうこうするうちに、ドモル事もなくなったし、いや、まだ完全ではないけれど、少なくともドモル事を気にしなくなったよ。うん、それで、今も学内のサークルで活動を続けているし、今では活動そのものが楽しいんだよ」
 ヤスオは都会言葉を使いながら、一気に話した。ヨシノリは、今までこれほど饒舌に、しかも生き生きと話すヤスオを見た事がなかった。
 ヤスオが今までの様な慰めの対象から、随分遠い存在になっている事に、あらためて気付かされた。
 それからは、逆にヤスオから積極的に宗教の必要性を訴えられる様になった。
 上京する前夜、父親がヨシノリに面と向って、
「学生運動とおかしげな宗教だけには絶対入るなよ、この事だけは厳重に注意しちょくぞ」
 とくぎを刺した。
 父親から父親ぶって言われる事の大半は、父親の面子に関わる事だったから、この時も適当に肯いていた。
 ヨシノリには、学生運動も宗教も全く興味がなかったし、まだその頃には必要性を感じていなかった。
 

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