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文字数 841文字

 二学期が始まり、後期委員の選挙で、ヨシノリがロングホーム実行委員に選ばれた。
 ロングホーム実行委員は、ロングホームで話し合う時、前に出て司会進行をしたり、話をまとめたりというヨシノリの最も苦手とする役割だった。
 選出された時、
「オレ、ロングホーム実行委員ゆうがらやないけん、誰か変ってくれんか」
 と冗談交じりに苦笑して言ったが、内心は真っ青になっていたのである。
 ヨシノリは、最初のロングホームが明日に迫っていた時、思い屈して深夜のアーケードを歩いていた。
 黒い空に浮かぶ黄色い月が不気味に笑っている。
 ふと気付くと、目の前に薬局があり、取り付かれた様に店内にフラフラと入った。
 店内はミラーボールの明かりが妖しく舞っている。
 店内に入ったものの、言おうか言うまいか逡巡し押し黙っていた。
 訝しげにヨシノリを見る薬剤師に、思いつめた表情で、
「何か、あのぅ、心臓が、こう、ドキドキしなくなるような、そんな、なんか、あのぅ、薬、ありませんか?」
「具体的には、どういう事かしら?」
 白衣の中の黒いブラジャーがミラーボールの明かりで透けて見える四十過ぎの化粧の濃い薬剤師が、優しそうに微笑みながら、不審気な眼でそう言った。
「こう、なんというか、人前に出て、発表、発表したり、したりする時、緊張、緊張しないような……」
 しどろもどろになり赤面しているヨシノリを見て、年配の薬剤師の顔が、笑いを堪えている表情に変わり、その横にいた若い女の薬剤師に目配せしている。
 代わりに受け答えをする若い女の薬剤師も吹き出しそうな表情を堪えていた。
 若い女は白衣の下に何も纏っておらず、お椀の様な小さな乳房がはっきりと透けて見える。
 店内には、ヨシノリへの愚弄した空気が漂っている。
「ごめんなさいね、そういった薬は置いていないけど……、そうねぇ、それはきっと、ボクが女を知ると治るかもね……」
 年配の薬剤師は、笑いを堪えるのがやっとという風に、隣の若い薬剤師の表情を窺いながら、口に手を当てたまま言った。
 


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