文字数 1,214文字

 高校生になったヨシノリは、親元を離れ民家の二階に間借りした。家主は元教師の四十過ぎの後家さんだった。
 受験した高校が地方での進学校だったため、中学三年の一年間は、勉強も少し頑張った。しかし高校入学後は、勉強もせず殆ど大学生の様な堕落した生活をしていた。
 好きだった野球も、監督があまりにちゃらんぽらんで嫌になり、中三で辞めていた。
 その後は野球熱もすっかり冷め、高校では野球はしなかった。
 異性に関心を持ちながらも、自慰すら知らない中学生活を送っていたが、高校生になり誰に教わるでもなく、自然の内に覚えた。
 初めて自慰をした時、それまでの長年の鬱積が放物線を描きながら壁に飛び散る様を見て、何故かガッツポーズをしていた。
 ヤスオとは高校が別になり、高校時代には会う事がなかった。
 

 高校に入学して二ヶ月が過ぎた頃、ヨシノリに手紙を渡した女子生徒がいた。
 同じ中学出身の同級生に、ネズミと呼ばれるキザな奴がいた。
 ネズミは、女子の間をチョロチョロ動き回り、入学してまだ二ヶ月も経たない内に、刈田ヒトミと云う不良だが可愛い彼女を作った。そのヒトミと同じクラスに、浜辺アキと云う美人だが何処か澄ました感じの女子がいた。不良の嗅覚で、直ぐにヒトミとアキは、友達になった。
 ヨシノリに手紙を渡したのは、アキだった。
 手紙を渡す時も、一人で教室に前方から臆する様子もなく入って来て、ヨシノリの前に真っ直ぐ進み、「これ読んで」と手紙をぶっきらぼうに差し出した。手紙をもらって、どう反応していいか解らず赤面していたヨシノリに、少しだけ覚めた目で笑い教室から出て行った。
 ヨシノリは一度アキから屈辱を味わっていた。
 以前、ネズミと付き合い始めたヒトミが、ネズミと同じ中学出身で紹介しやすいからと、アキにヨシノリの事を話した。
 アキにヨシノリを見せ様と、ヒトミがアキを連れてヨシノリの教室に向かって廊下を歩いていた時、ヨシノリは何も知らず二人とすれ違った。
 すれ違った後、「タイプじゃないよ」と、ヒトミに云って笑っている声が聞こえた。
 そんな生意気なアキが自分に手紙を持って来た事は、意外だった。
 アキに最初会った頃のヨシノリは、坊主頭から少し髪が伸びた程度で、七三に分けた髪型がいかにも野暮ったく、真面目で地味な生徒にしか見えなかった。しかし手紙をもらった頃には、髪もロングにし、真中から分けた感じがイメージを随分変えていた。
 それにしても、アキの手紙に書かれている内容は、高校に入って初めてもらう手紙にしては、随分と過激なものだった。
 そこには、氏名、住所、出身校、好きな音楽等とありきたりな内容が続いた後、好きなことーセックス、趣味―男あさり、最後に、こんなワタシでよかったら付き合ってね、と綺麗な字で書いてある。
 おくてでシャイなヨシノリにとっては、揶揄われているとしか思えなかった。
 アキの本心が読めない事から、返事はしないままでいた。



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