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文字数 720文字

 サトミは、何に対しても素直に聞く習性から、ヤスオに誘われ何回か会合にも足を運んでいた。
 ヨシノリには、たとえそれが宗教の集会であっても、人間が多く集まる場に足を運ぶ事の嫌悪感やその場の自分の窮屈さを考えれば、自然に足が遠のくのであった。
 病的な自意識。
 それにもまして自分自身を客観視出来ぬゆえの自己愛。ぎりぎりのところでまだ諦め切れぬ、自己の可能性に対しての変革願望。これらしぶとい程の執着心がまだくすぼっていた。
「どうだった今日の集会?」
 明るい表情になって返ってくるサトミに対して、何処か妬む様な、羨む様な、且つ寂しい様なやり場のない気持ちで聞いた。
「とてもすばらしかったわ、三田君も行けばよかったのに。ワタシあの人達が皆明るく元気な事が最初は不思議だったけど、何回か行くうちに、自分もあんな風に明るくなれたらなぁ、って思う様になったわ。だって皆、本当に生き生きしていて楽しそうなんだもの、なんだか羨ましかったわ」
 本当に心の底から羨ましそうに、サトミは云った。
「皆、何かにとりつかれた様になっているんじゃないのか?」
 ヨシノリは、その集会の雰囲気が想像出来ずに、既成の宗教感とあいまっていかがわしく感じられ、あえて意地悪くそう云った。
「三田君もそう思うでしょう、ワタシだって最初谷君から誘われた時、内心は嫌だったのよ。あんまり谷君が熱心に誘ってくれるから悪いと思って出ていただけよ。だけど、全然違っていたのよ、想像していたものと。おじいちゃんおばあちゃんの集まりだと思って行ったら、私達と変わらない年齢の人達が殆どで、しかも皆が元気で明るいのに驚いたわ、本当に心の底から楽しそうなのよ」
 腑に落ちない表情でヨシノリは聞いていた。

 

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