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文字数 621文字

 ヨシノリは、ロングホームが来る日を、怖じ気付きながら待っていた。
 これでは、結局のところ中学時代に味わった、笛吹きのテストの恐怖と変わった事ではない。
 この頃のヨシノリは、全ての事に自信を無くし、怯えながら過ごしていた。
 気弱さから物事を悲観的にしか捕えられず、どんどん暗くなる一方だった。
 追い詰められて逃げ場が無くなると、安易に死という選択肢を思い描いたりもした。
「なんと気弱で情けない男よ」
 と罵られても、自分の性格は変えられないと、深く傷ついていた。
 それからは、薄氷を踏む思いで、必死にピエロを演じ続けた。無様に道化をして、笑いで誤魔化そうとした。
(いっその事皆がオレを、白痴扱いにしてくれたらどんなに気が楽かもしれない)
 眠れない夜など、そんな事まで思った。
「惨めな自分の姿をさらしてまで生きたくはないんです、恥をかくのは惨めで嫌です、これ以上恥をかくなら死んだ方がましです、オレの人生にもう希望なんてないんです、オレはクズで何のとりえもない人間です、誰よりも劣っています、皆が普通にする事すら出来ないんです、オレは白痴です、皆さんオレを笑ってください」
 といった言葉を、チンドン屋の様に首からぶら下げ生きるしかないと思えば、身体中の気力が消え失せた。
 死ぬ事は勇気のいる事だ。そう容易く死ねるものではない。ヨシノリの様な小心者に、死ぬ度胸はない。
 結局は、醜いゴキブリの様に、惨めにコソコソと逃げ回る生き方を選ぶしかなかった。



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