文字数 1,206文字

 梅雨に入りじめじめした寝つきにくい夜が続いていた。
 明日が晴れなら、友達とバイクで遠出をする約束をしていた。
 深夜になっても寝つかれず、二階の窓から空ばかり仰いでいた。
 外気がひんやりと気持ち良く、窓から屋根に出て、暫く星を眺めながら涼んでいた。
 屋根に座って夜空を見ているヨシノリの視界に、隣のアパートの一室が目に入った。そこには、OLらしき女性が入居していた。
 ヨシノリの間借りしている民家と、女の入居しているアパートは隣接している。アパートも大家の所有であり、敷地内に無理矢理建てた感がある。
 女の部屋はアパートの二階にあり、ヨシノリの部屋から、屋根伝いに侵入する事が可能な程、くっついているのである。
 周辺は空き地が広がっており、屋根に出ていても誰かに見られる心配はない。 
 女はベッドに座り、何かを食べながらテレビを観ていた。その様子が、いかにも怠惰そうである。
 ヨシノリの姿は、女からは暗くて見えないらしく、見られている事に気付く様子はない。
 覗くきっかけは偶然とは云え、覗き続ける事に罪の意識を感じた。
 女は三十過ぎくらいで、決して美人とは云えないが醜女でもない。中肉中背の身体の線に、何処かだらしなくくたびれた感じがある。黒髪を肩まで伸ばした陰気そうな女は、職場では目立たないタイプに違いないと思った。
 ヨシノリは、初めて覗く女の私生活に興味をそそられた。女は無表情に、テレビを見続けている。
 ヨシノリは、屋根の上に寝そべって暫く目を瞑っていたら、何時の間にか女の部屋のライトも消えていた。
 それ以後、屋根に出ては女の部屋を覗き見る様になった。
 そんな事を何日か続けていたある夜、女の部屋のライトが一度消えたかと思いきや、次に豆球に変わった。
 どうやら何時もと様子が違うと思い、目を凝らして見ていたら、女が自慰を始めた。
 部屋の中の様子は、豆球の明かりでも充分に覗える。かえって、薄明かりが中の様子を妖しく見せた。
 女はベッドに仰向けに寝て、左手で乳房を揉み、右手で股間を弄っている。女は執拗に愛撫を続けた。


 女の自慰は、思いのほか回数が多かった。
 女の暮らしは、覗き見する限り、とても地味に感じる。
 女には、付き合っている男はいないらしく、夜の九時以降に外出する事は殆ど無い。外泊する事も全くといって、無かった。
 女が帰宅後する事と云えば、まず始めに遅い夕食を取り、その後風呂に入りテレビを観る。そして排泄をするかのごとく、習慣の様に自慰をした。
 ヨシノリが覗き始めてからの女の日常は、単調そのものだった。
 覗きが癖になった頃、ふと、女がヨシノリに覗かれている事を、気付いているのではないかと疑う様になった。
 女は自慰をする時、カーテンを閉めない。そして必ず豆球を点ける。女の部屋にクーラーもなく、窓を開け放している事は、多かったが。
 段々とヨシノリには、女の自慰行為が演技の様に思えてきた。



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