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文字数 1,486文字
ヨシノリは、屈辱の中学生活を送る中で、自然の内に自分に近い男を捜す様になった。
自分より弱くて情けない男。しかも低能ではなく、運動神経も外見も普通以上の男。
ヨシノリは、その男の存在によって自分を慰める以外に、生きる希望が見いだせないと思った。以来、飢えた狼が獲物を捜すが如くその類の男を捜した。
ヨシノリとは別の小学校から来た男の中に、獲物が存在した。
同類の友。
国語の本読みの時、どもって、つっかえ、まともに読めない男がいた。頭も外見も悪くないその男は、休み時間にいつも一人で漫画を読んでおり、友達がいなかった。
ヨシノリが、その男に近づくにはそう時間を要しなかった。
谷ヤスオは、モヤシの様に細い男だった。陸上部で長距離走をしていた。黙々と一人走る姿が、孤独なヤスオに合っているとヨシノリは思った。
昼休みで皆が教室から出ていたため、残っているのはヨシノリとヤスオだけだった。
「何読みようが?」
ヨシノリが、この上なく優しげに尋ねた。その声が聞こえない様に、ヤスオは漫画を読み続けていた。
「何か見せてくれや」
ヨシノリは、なお甘えた声でヤスオの背中に手を回して聞いた。
「な、な、なんでも、え、ええろうがぁ」
ヤスオは、不機嫌な態度をあらわにした。ヤスオは、暗く殻に閉じこもっており、人を寄せ付けない雰囲気がある。
「オレもな、漫画好きでいっぱい持っちょうぜぇ、今度ヤスオ君、家に遊びに来いよ、好きなだけ貸しちゃうけん」
ヨシノリは、漫画の話をすれば、ヤスオがきっと乗ってくるだろうと思った。
「ほん、ほ、ほ、ほんとうか、ほ、ほんとうに、か、かしてくれるがか?」
ヤスオの顔が、上気して赤くなっている。
「本当や、絶対にヤスオ君が気に入る本いっぱいあると思うよ」
事実ヨシノリは、小さい頃から漫画を買い集め、母親から捨てなさいと云われても絶対捨てなかったため、漫画本の数は相当の量になっていた。
この日をきっかけに、ヨシノリはヤスオと友達になった。自分を慰めるためだけの友達ではあったが。
ヨシノリにとっては、ヤスオが本読みでどもればどもるほど、内心安堵するのである。
ヤスオは、普段あまりどもらなかったが、緊張し早口になるとどもる。ヤスオがどもり出すと、クラスの中から忍び笑いが漏れ始め、それがクラス中に伝染するのである。
何時もヤスオは真っ赤な顔をして、読み続けた。あせればあせるほどどもりが酷くなった。
ヨシノリは、笛のテストで自分が屈辱を味わうまでは、ヤスオのどもる現象もさしたる関心事ではなかった。少々バカにした様に笑っていただけだ。しかし今のヨシノリにとっては、何よりの救いであったし、これからの生きていく支えであるとすら思った。
「もっともっとどもれ、もっともっと恥をかけ、そしてオレの事が少しでもみんなの記憶から薄れる様にしてくれ」
と、祈る思いでヤスオのどもる声を聞いていた。
ヨシノリが、自分と同じく成績も運動も人並み以上に出来る男の中から、唯一優越感を与えてくれる男、それがヤスオだった。
案の定、ヤスオはヨシノリの部屋に数多くある漫画本を、うっとりした表情で眺め、それ以来足繁く通う様になった。
親友?
「オレは、ヤスオ君が一番好きだよ、これからずうっと友達でいようよ」
ヨシノリの部屋で漫画本に夢中になっているヤスオに、うっとりする様な声でヨシノリが云う。
「ボ、ボ、ボクもキ、キミとは、ウ、ウマがあうよ」
とまんざらでもないように、ヤスオも云った。
こうして、ヨシノリの精神的支柱でありなおかつ偽の親友となったヤスオとの交友は、暫く続く事になる。
自分より弱くて情けない男。しかも低能ではなく、運動神経も外見も普通以上の男。
ヨシノリは、その男の存在によって自分を慰める以外に、生きる希望が見いだせないと思った。以来、飢えた狼が獲物を捜すが如くその類の男を捜した。
ヨシノリとは別の小学校から来た男の中に、獲物が存在した。
同類の友。
国語の本読みの時、どもって、つっかえ、まともに読めない男がいた。頭も外見も悪くないその男は、休み時間にいつも一人で漫画を読んでおり、友達がいなかった。
ヨシノリが、その男に近づくにはそう時間を要しなかった。
谷ヤスオは、モヤシの様に細い男だった。陸上部で長距離走をしていた。黙々と一人走る姿が、孤独なヤスオに合っているとヨシノリは思った。
昼休みで皆が教室から出ていたため、残っているのはヨシノリとヤスオだけだった。
「何読みようが?」
ヨシノリが、この上なく優しげに尋ねた。その声が聞こえない様に、ヤスオは漫画を読み続けていた。
「何か見せてくれや」
ヨシノリは、なお甘えた声でヤスオの背中に手を回して聞いた。
「な、な、なんでも、え、ええろうがぁ」
ヤスオは、不機嫌な態度をあらわにした。ヤスオは、暗く殻に閉じこもっており、人を寄せ付けない雰囲気がある。
「オレもな、漫画好きでいっぱい持っちょうぜぇ、今度ヤスオ君、家に遊びに来いよ、好きなだけ貸しちゃうけん」
ヨシノリは、漫画の話をすれば、ヤスオがきっと乗ってくるだろうと思った。
「ほん、ほ、ほ、ほんとうか、ほ、ほんとうに、か、かしてくれるがか?」
ヤスオの顔が、上気して赤くなっている。
「本当や、絶対にヤスオ君が気に入る本いっぱいあると思うよ」
事実ヨシノリは、小さい頃から漫画を買い集め、母親から捨てなさいと云われても絶対捨てなかったため、漫画本の数は相当の量になっていた。
この日をきっかけに、ヨシノリはヤスオと友達になった。自分を慰めるためだけの友達ではあったが。
ヨシノリにとっては、ヤスオが本読みでどもればどもるほど、内心安堵するのである。
ヤスオは、普段あまりどもらなかったが、緊張し早口になるとどもる。ヤスオがどもり出すと、クラスの中から忍び笑いが漏れ始め、それがクラス中に伝染するのである。
何時もヤスオは真っ赤な顔をして、読み続けた。あせればあせるほどどもりが酷くなった。
ヨシノリは、笛のテストで自分が屈辱を味わうまでは、ヤスオのどもる現象もさしたる関心事ではなかった。少々バカにした様に笑っていただけだ。しかし今のヨシノリにとっては、何よりの救いであったし、これからの生きていく支えであるとすら思った。
「もっともっとどもれ、もっともっと恥をかけ、そしてオレの事が少しでもみんなの記憶から薄れる様にしてくれ」
と、祈る思いでヤスオのどもる声を聞いていた。
ヨシノリが、自分と同じく成績も運動も人並み以上に出来る男の中から、唯一優越感を与えてくれる男、それがヤスオだった。
案の定、ヤスオはヨシノリの部屋に数多くある漫画本を、うっとりした表情で眺め、それ以来足繁く通う様になった。
親友?
「オレは、ヤスオ君が一番好きだよ、これからずうっと友達でいようよ」
ヨシノリの部屋で漫画本に夢中になっているヤスオに、うっとりする様な声でヨシノリが云う。
「ボ、ボ、ボクもキ、キミとは、ウ、ウマがあうよ」
とまんざらでもないように、ヤスオも云った。
こうして、ヨシノリの精神的支柱でありなおかつ偽の親友となったヤスオとの交友は、暫く続く事になる。
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