文字数 897文字

 この頃のヨシノリには、まだ性についての知識が乏しく、
「昨夜白い小便出しちにゃ」
 と連れションしながら、不良達がニヤついて話している意味すらわからなかった。
 ヨシノリにとっては、寝小便の恐怖からやっと解放されて、まだ数年しか経っておらず、性に関する情報も少なかった。ただ放課後友達の家に寄った時などに、「プレイボーイ」等のヌードグラビアを、友達とニヤニヤしながら見る程度だった。
 村田ブンタと大喧嘩した時、「ブンタに負けるなー」と声援してくれた近所のモックンは、高校生になっていた。弟のコウチャンは中学三年で野球部のエースだった。
 ある日、モックンの家に遊びに行っていた時、二人はニヤニヤしながらエロ本のヌードグラビアを眺め、「このオナゴの股に、くいこんじょうパンツ姿がええろうが」と云い、ニヤついた顔で、ヨシノリにそれらのグラビアを見る様促がして、一つ一つの女の裸体についての解説をした。
 モックンもコウチャンも、女の股にくいこんだパンツ姿が一番気に入っているらしく、何度も何度も「えぇにやー」と溜息をついた。
 この頃のエロ本には、まだ女の恥部を露骨に見せるものは無かった。
 父の重雄が、材木の運搬に使っていた二トンのダンプが、庭先に停まっていた。
 ヨシノリは、何気なくダッシュボードを開けて、中を弄っていた。
 その時、古い手帳の中から数枚のモノクロ写真が出てきた。それは今までヨシノリが見てきたヌードグラビアとは、異質の、見てしまった事を、後悔させられるものだった。
 ヨシノリは、思わず辺りを見回し、誰もいないことを確認した上、恐る恐る助手席に体を埋めながら、それら数枚の写真に見入った。そこには、山の中で男数人に囲まれた女が両足を両サイドの男に広げられ、恥部があらわになった写真があった。女も笑っているところから、玄人の写真かとも思うが、回りに写っている男達は、どう見てもそこらにいる様な大人達だった。ヨシノリはそれらの中に、重雄らしき姿が写ってない事にひとまず安心した。
 この日を堺に、重雄に対して、寝小便でもっていた負い目が少し和らぐと同時に、重雄に対する言い様のない不潔さを感じた。



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