21

文字数 857文字

 童貞のヨシノリにとって、無垢に見えたサトミが、既に男を知っているという事実に、正直ショックを受けた。
 ヨシノリは童貞である事に気後れがあり、サトミに対しての親近感が薄らいでいく気がした。
 しかしヨシノリには、今のところサトミ以外に心許せる友達もおらず、そのまま交際を続けた。
 二人で飲む回数が多くなったものの、肉体関係にまで進展する事はなかった。
 ヨシノリは、如何してもサトミに感じる無垢なイメージが壁となり、サトミを女として見る事に抵抗がある。サトミも肉体関係を望んでいないものと、勝手に思い込んでいたから、ずっとこのままの関係でいたいと思っていた。映画に行ったり、図書館で本を読んだり、郊外の人通りの少ない道を、だらだらと並んで歩くだけで満足していた。
「ところで何時か、聞きたいと思っていたんだけど、前の彼氏とは何処で知り合ったの?」
 ヨシノリは、何時も来る郊外の公園のベンチに腰掛けながら、唐突に聞いた。
 サトミは、「エッ」と驚いた様な顔でヨシノリを見返した。
 さっきまで二人は無言のまま、公園で遊ぶ親子連れの様子を眺めていたのである。
「その人とは、何処で知り合って、如何して別れたの?」
 ヨシノリは、気にするまいとは思いながらも、サトミと肉体関係を持った男の存在が頭から離れずにいた。
「如何して……、如何してそんな事聞くの? 三田君には関係ないじゃない……」
「ゴメン、ちょっと聞いてみたかっただけだから……」
「ワタシは、三田君に隠し事をしたくなかったから、だから本当の事を云っただけで、もうその人とはとっくに別れているんだし……」
「そうだね、変な事を聞いたりして、オレが悪かった……」
 ヨシノリは、誰にも他人には云いたくない過去がある事を、自分の体験から思い出していた。
(オレには、身内にすら云えない、惨めで屈辱的な過去がいっぱいあるんだし、それを他人の過ち、否、過ちとすら云えない些細な出来事を根掘り葉掘り聞いて如何する)
 とヨシノリは、悶々として眠れぬ夜など、自慰行為に耽りながら自分に云い聞かせた。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み