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文字数 1,046文字

 大学には出席を取る授業だけ出た。教授の出席確認が済むと、直ぐに後方のドアから授業を抜け出し、パチンコ屋に行った。
 小田切はじめ数少ない友人もいたが、出来るだけ深入りはしない様にした。
 それと云うのもファミレスの一件以外にも、屈辱を味わっていたからだ。
 授業が終わって隣に座る小田切から、
「今から麻雀やんないか? メンツが一人足りないんだ」
 と誘われた。
 マージャンの経験もなく、役もピンフとタンヤオくらいしか知らないと断ったが、
「ほかの奴らも初心者みたいなもんだから大丈夫だよ」
 と小田切に強引に誘われ、ついて行く羽目になった。
 小田切の高校時代の友達二人との四人打ちで、初めての雀荘に緊張していた。パイを二段に積む時、微かに震える小手先を隠そうとパイを持つ手に力が入り、ぎこちない動きになり上手く積む事が出来ず、何度か失敗しパイをバラバラと落とした。
 小田切が蒼い顔してパイを拾い積み直しているヨシノリを見て怪訝そうな顔をした。
 ヨシノリは、ここでも失敗したと思い、この場から逃げ出したい衝動に駆られた。
 ヨシノリにしたら、誘いを断るとマージャンも出来ない田舎者と思われそうで、したくもないのに雀荘に渋々ついて入ったのである。ましてや経験のないマージャンを雀荘でする事に、その場の雰囲気にすっかり飲み込まれ萎縮していた。周りの都会風の大学生たちが余裕の体で煙草を吹かしながら慣れ切った態度でパイを握る姿に、圧倒されていたのだ。
 何度もパイを積む事に失敗するヨシノリを見て小田切が、
「オレ達三人でやるから、ちょっと三田そこでみてて」
 と呆れた風に云った。
「小さい、小さい、気がよぅ」
 小田切がその後小さい声で独り言ちた言葉がヨシノリの心に刺さった。
 この頃から、ヨシノリは飲酒して学校に行く様になった。
 授業で英語のリーデイングテストがある時には、ウイスキーを飲んで学校に行き、気分を和らげ、恥をかかない様にした。マスクをして酒の匂いに気付かれない様、出来るだけ人を避け隅っこに座った。こうして逃げ続け、誤魔化しながら、何とか急場を凌いでいた。
 童貞を捨てると、少しでも病的な自意識から解放されるかもしれないと思い、風俗店にも行ってみた。
 本番が禁止されている事を知らなかったヨシノリが、フェラチオにいきそうになり女を抱こうとしたら、
「何するのよ、あんた!」
 と女が悲鳴を上げた。
「ここは本番禁止って知らなかったの」
 三十代後半の醜い厚化粧の女が、煙草を吸いながら馬鹿にした顔で云った。
 
 
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