賢いのはどっち?

文字数 1,214文字

 春になったばかりのある朝、一羽のワタリガラスが古いナラの木に止まっていました。ワタリガラスはとても機嫌が悪くいらだっていたので、ただ「カー! カー!」と言うだけでした。
 そんなにしないうちに、小さなコマツグミが、陽気な歌を歌いながら、巣をかける場所を探そうと同じ木にやってきました「おはようございます」コマツグミはワタリガラスに言いました。
 ですが、ワタリガラスは返事をせず、ただ雲のほうを眺めながら、冷たい風について文句を言い続けるだけでした。「私は、おはようございますって言ったんですよ」コマツグミは、枝から枝へと飛び移りながら言いました。
「こんな、何も無い朝にずいぶんと楽しそうだな」ワタリガラスはぼやきました。
「どうして楽しくしちゃいけないんです?」コマツグミは尋ねました。「春がやって来たんですから、みんな嬉しくて幸せになるんですよ」
「俺は幸せじゃない」ワタリガラスは言いました。「あの上にたちこめてる、黒い雲が見えんのかね? すぐに雪が降り出すぞ」
「そうですか」コマツグミは答えました。「どちらにせよ、私は降って来るまでは歌いますよ。陽気な歌は、寒さも感じなくしてくれますから」
「お前はものすごくバカだな」ワタリガラスはぶつぶつと言いました。
 コマツグミは別の木へと飛んで行って、歌い続けました。ですがワタリガラスは、ひどく不幸な気分のまま、そこに止まっていました。
「風はすごく冷たい」ワタリガラスは言いました。「俺に言わせると、風はいつも吹く方向を間違えるんだ」
 そしてすぐに、太陽が現れて暖かな軽い光が辺りにあふれ、雲はどこかへ行ってしまいました。ですがワタリガラスは変わらず、落ち込んだ気持ちのままでした。
 牧場では草が芽吹き始めました。林では緑の葉や花が見えました。鳥たちと蜂たちは、明るい日の光の中、そこかしこを飛び回りました。ワタリガラスは、古いナラの木の枝に、一羽ぼっちで止まっていました。
「ここは暖かすぎるか寒すぎる」ワタリガラスは言いました。「確かに今はとても快適だ。だが知っているぞ、太陽はすぐに火傷しそうなほど熱くなるのをな。それに、明日はこの前みたいに寒くなるかもしれん。てんでわからんよ、こんなときに歌を歌えるバカな奴の気持ちはな」
 ちょうどそのとき、コマツグミが口に藁をくわえて戻って着ました。
「さて、ワタリガラスさん」コマツグミは尋ねました。「雪はどこですか?」
「何も言うな」不満気にワタリガラスは言いました。「この日差しのせいで、もっとひどい雪が降ってくるだろうから」
「そして雪であれ日差しであれ」コマツグミは言いました。「あなたは文句を言い続けるんでしょうね。いっぽうで私は、何もかもが良いほうに見えるし、今年も毎日のように歌いますよ」
 さて、賢いのはワタリガラスとコマツグミ、どちらでしょうね?

 [1] Permission of American Book Company.
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