赤い帽子

文字数 2,744文字



 フィリスは自分の部屋で座り、お人形を寝かしつけようとしていました。窓は開いていて、そよ風がカーテンをゆっくりとはためかせています。
 そのとき、一羽の鳥が飛び込んできました。とても美しい羽根をしています。白い模様がたくさん、柔らかくて色鮮やかな身体に入っていました。
 その鳥はフィリスのいる部屋に入ってしまったのに、少しも驚いているように見えませんでした。窓枠に留まって、小さな女の子をちらりと見もしません。
 一瞬のうちに、鳥はドアの上側の枠へと飛んで行きました。そして、力強い小さなクチバシで、木材をトントントンと叩いたのです。
「キツツキさんと同じことをするけど、全然似ていないのね」フィリスは言いました。
「と言うことは、君はすべての種類のキツツキを知らないんだね」ふわふわした灰色の鳥は言いました。「僕はズアカキツツキという鳥なんだ」
「あなたが?」フィリスは驚いて大きな声を出しました。「でも、赤い帽子や白いベスト、それに黒いコートはどこへ行ったの? わたしをからかおうとしてない、ちびさん?」
「僕の父さんや母さんは、頭が真っ赤だし、首と喉も同じ色だよ。そして二羽とも胸は白い。背中と翼と尻尾は黒さ。空を飛ぶと、翼の白い縞模様がとてもくっきり見えるんだ。
 僕の巣は、門のところにある、ナラの老木の幹にあるよ」
「ものすごく変な話ね」フィリスは言いました。「もしかしたら、誰か他の鳥が、キツツキの巣に間違えて卵を産んだんじゃないの?」
 小さな鳥は、笑いながら飛んだのでふらふらした飛び方になりました。
「いやいやフィリス、どうやら全部話さなくちゃならないね。僕は確実にキツツキだよ。でもまだ若鳥なんだ。初めて空を飛んでまだ一週間も経ってないし」
「若鳥にしては上手に飛べているわよ」フィリスは言いました。
「うん、僕の母さんはとても賢いんだ」鳥は言いました。
「母さんはね、ヒナ鳥がまだ小さいうちに巣の外に出すのは良くないって考えているんだ。翼が強くなるまで待ったほうが、危ない目にあう可能性が低くなるはずって言うんだよ。
 だから僕は本当に大きくてしっかりするまで、巣の中に残ったんだ。それから両親は僕に外に出るように言って、飛び方を教えてくれた。
 つい昨日、僕は母さんに、どうして僕は母さんのような色の羽根じゃないのかって訊いたんだ。
 母さんは言った。『もう少し待ちなさい、わが子よ。あなたが完全に大人になれば、あなたの頭は私と同じように赤くなる。私やあなたの父にそっくりになって、下のほうにいる人間の子供たちは、私たちを見分けることはできなくなるでしょう』
 こんな灰色の簡素な衣装を着ていたら、僕がキツツキだって君にわからなかったのも無理はないね。どのキツツキの子供も、最初はこんな感じなんだ。僕は華やかな赤い帽子になるのが楽しみだ」
「まあ」フィリスは言いました。「あなたが会いに来てくれて嬉しいわ。古いナラの木に巣があるのは知っていたの。二、三週間前に、午前の間中ずっとあなたのお父さんとお母さんを眺めていたのよ。あの木を選んだのは、古い枯れ枝が何本もあるからだと思ってるの。
 あなたのお母さんが、硬い尻尾を支えにして、木の幹に張り付くのを見たわ。それから、くさび形のクチバシで木を叩いているのが見えた。二十分もの間、お母さんは腐った木を叩き続けていた。それから疲れたお母さんに代わって、あなたのお父さんが木の幹に張り付いた。
 すぐに、鳥の身体が見えなくなるぐらいの深い穴が開いたけど、トントンという叩く音はずっと聞こえ続けていたわ。
 どれぐらいの深さに掘ったんだろうって思ったけど、その場所は私が登って確認するには高すぎたの」
「巣から出てきたばかりの僕が、その疑問に全部答えるよ」若いキツツキは応じました。「僕の両親は柔らかい木の幹を、だいたい四十五センチぐらいの深さになるまで掘り進めた。穴の底は巣にするから、広めにしてね。羽根や草で巣の内張りはしない。コケのベッドの代わりは、少しの木屑と滑らかなナラの木の壁さ。
 その巣で、母さんは六個の真っ白な卵を産んだ。その上に座って暖め続けると、とうとう六羽のふわふわのヒナが殻を破って出てきた。
 僕たちはとても腹ペコでね。母さんも父さんも、もっともっととせがむ開きっぱなしの口に、餌を詰め込むので大忙しだった。
 両親のくれる餌はどれもとても美味しかったよ。サクランボやベリーをもらえるときもあれば、ナシやリンゴのかけらをもらえるときもあった。
 でも、一番はなんといっても、いつも持ってきてくれる、太って汁気たっぷりの地虫だね。
 僕は父さんに、どこで地虫を捕まえるのか訊いたんだ。父さんは僕をからかってから、いつもの甲高い生き生きした声で母さんを呼んだ。
 母さんは、それは若いキツツキが自力で見つけ出さなくちゃならないものだって言ったよ。
 そのあとも両親が太った地虫を持ってきてくれる度、僕は独り立ちしたあと、自分はちゃんと餌をみつけられるようになるだろうかって思ったよ。
 ついに僕の翼は充分に強くなって、両親は巣から出なさいと言った。そのすぐあと、太った地虫は、このナラの木の樹皮の下で暮らしているのに気づいた。だから僕はクチバシを樹皮に差し込んで、獲物を手に入れるだけで良かった」
「高い場所にある安全な巣を離れるのは、残念じゃなかったの?」フィリスは尋ねました。
「実を言うと、そこまで安全じゃなかったんだよ」若いキツツキは答えました。「僕は巣を離れたあと、大きな黒いヘビが忍び込んできてね、弟や妹たちはみんな食べられてしまった」
「かわいそうに!」フィリスは言いました。「ヘビなんて思いもしなかったわ!」
「あいつらは僕たちの一番恐ろしい敵なんだ」それが答えでした。「リスもたまに忍び込んできて、僕たちが貯めている木の実やトウモロコシを盗んでいったりするけど、一番恐ろしいのはヘビだね」
「あなたたち、餌を貯めておくの?」フィリスは尋ねました。「それなら、ここで冬を越すの?」
「ああ、そうだよ。僕たちは冬をずっとここで過ごす。冬の間、僕たちが木の間を飛び回っているのを見たことはないかい?」
 このとき、鳥は窓枠に座っていました。
「行かなきゃいけないの?」フィリスは尋ねました。「このイチゴ、あなたにあげるね」
「ありがとう」鳥はそう言って、果物をついばみました。「これからトウモロコシ畑に行くんだ。父さんがまだ若いトウモロコシの皮を剥いて、中の美味しくて汁気たっぷりの粒を手に入れる方法を教えてくれるんだ」
「赤い帽子になったらまた来てね」フィリスは大声で言いました。そしてトウモロコシ畑からは、若いキツツキの活気に満ちたお返事が響いてきたのでした。
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