ヒバリに救われた話

文字数 2,336文字


 小さなヘレンは四歳でした。ヘレンが暮らしているのは田舎にある小さな白い家で、窓には緑の日よけがかかっています。家の周りには広い庭があって、正面では美しい花々が咲き乱れ、両側には大きなカエデの並木がありました。
 家の裏手は果樹園になっていて、鳥たちが巣を作り、美しい歌を歌っていました。二本の大きなリンゴの木の間にブランコが下がっていて、そこには裏手のドアを通るとすぐに行けました。ヘレンがブランコを高く高く漕ぐと、枝に下がっている緑のリンゴに触ってしまいそうでした。
 果樹園と二羽の裏手には、大きな赤い納屋がいくつもありました。これらの納屋はヘレンにとっていつも関心の的でした。お父さんといっしょに納屋に行くと、積み重なったトウモロコシや小麦、鋤や荷車、それ以外にもたくさんの、そこにしまってあるものを眺めて楽しむのでした。
 収穫の季節のある朝、ヘレンはドアの敷居の上にひとりで立っていました。太陽はまぶしく輝き、コマドリたちはリンゴの木の上で歌っていました。バッタたちは小道で鳴いています。ですがヘレンに聞こえた音をたったひとつ、朝の穏やかな空気の中聞こえて来る、離れた場所の刈り取り機の音でした。ヘレンは、お父さんが刈り取り機を動かしているのだとわかりました。
 刈り取り機が何かを知っていますか? 農家の人が、実った穀物を刈り取るのに使う道具です。馬に引かせると、多くの鋭い刃がとても素早く前後に動いて穀物の茎を切り取るのです。
「畑に行って、お父さんを手伝いましょう」ヘレンは独り言を言いました。
 次の瞬間には、小さな足は実った麦畑へと向かっています。
 果樹園を横切り小道を下りながら、ヘレンは日よけのボンネットを手に持ち、見かけたバッタたちには声をかけました。
 ですがとうとう畑についたとき、ヘレンが見たのは反対側のずっと遠くにいる人々と刈り取り機でした。
 ヘレンが畑の中を突っ切ることにしたのは、すぐに皆に追いつけると思ったからでした。ですがそんなにしないうちに、小さな足は疲れてしまいました。
 それでヘレンは小麦の束に座って周りを見渡しながら、お父さんが来てくれないかなあと思いました。
 ヘレンのすぐ正面には、黄色い小麦がまだ生えています。ヘレンはどうしてお父さんはこれを刈り取らないんだろうと思いました。
 ヘレンが眺めていると、小麦の間からヒバリが一羽飛び出してきて、豊かで澄んだ歌声を聞かせてくれました。小さな子供は嬉しくて手を叩きました。それからヘレンは座っていた場所から飛び上がるように立ち上がり、小鳥の飛び立った場所へと駆けて行きました。
「巣があるはず、探してみましょう」ヘレンは独り言を言いました。背の高い黄色の小麦の茎を左右にかき分け、輝く鋭い瞳で周囲を観察しながら進んで行きます。遠くまでいかないうちに、右の方向に巣があるのを見つけました。中には三羽の小さなヒナがいます。
 クチバシを大きく開けた小さなヒナの頭ほど、可愛いものはないでしょう! そして、ここは巣を作るのにぴったりの場所でもありました。ヘレンはまた手を叩きました。とても嬉しかったのです。
 それからヘレンは巣の傍に座りましたが、ヒナには触りませんでした。小麦の丈がヘレンの頭より高くにあるので、金色の森の中にいるような気持ちです。
 すぐにヘレンのまぶたは重くなってきたのは、長く歩いたせいでとても疲れていたからでした。ヘレンは座ったまま、腕に頭を預け、すぐにぐっすりと眠り込んでしまいました。
 馬たちが、鋭い刃をつけた刈り取り機を引きながらやってきました。ヘレンの父が手綱を握るその刈り取り機は、小さな子供が眠っているまさにその場所へ向かおうとしています!
 ああ、なんということでしょう。お父さんはヘレンが小麦の中に隠れているなんて少しも思っていないのです!
 お父さんが馬たちを突然止めたのはどうしてでしょう? 何かがお父さんの大事な娘が危ないと教えたのでしょうか?
 いえいえ! お父さんはヘレンはお母さんといっしょに安全なお家にいると思っているのです。ですがお父さんは優しい心を持っている良い人でした、だからあるものを見かけて馬を止めたのです。
 ヒバリが刈り取り機の前の小麦の前で、せわしなく飛び回ったのです。それはまるで「止まれ! 止まれ!」と言っているようでした。お父さんはヒバリの伝えたいことに気づきましたし、鳥の巣を傷つけるには心が優しすぎました。だからお父さんはいっしょにいた人たちのひとりに言いました。「おいトム、ちょっと来て馬を抑えててくれ。この小麦の間で、鳥が確実に巣を作っている。ちょっと行って見てくるよ」
 ヘレンがヒバリの巣の近くでぐっすり眠り込んでいるのをお父さんがみつけたとき、いっしょにいた人たちはどんな驚きの声を聞いたことでしょう! ヘレンがどんな危ない目に遭いかけたかに気づいたとき、どれだけお父さんは肝をつぶしたことでしょう! お父さんは両腕でヘレンを抱き上げて、顔にたくさんキスをしました。「ああ、ああ、大事なヘレン!」お父さんは言いました。「ヒバリがお前を助けてくれたんだよ」
 そうです、ヒバリと、お父さんの優しい心がヘレンを助けてくれたのでした。お父さんは力強い腕で、ヘレンを家まで運びました。お父さんの頬をどうして涙が伝っているのか、それはヘレンにはわかりませんでした。
 皆が仕事に戻るまでにはしばらく時間がかかりました。ヒバリの巣がある小麦がそのまま残されたのは、皆が言うように、小さなヘレンを救ってくれた感謝の気持ちからでした。

訳者補足:この話と前の話は、作者が作ったものではなさそうなのですが、誰の作なのかまではわかりませんでした。
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