陽気な赤い胸の鳥

文字数 3,930文字

「赤いお胸のコマツグミさん
 大きな枝で歌っているいる
 来て朝ごはんをおあがりなさい
 これからご飯をあげましょう
 コマツグミさんは金色の穀物がお好き
 首を傾げてまた歌を歌う
『ピーチク、ピーチク、元気いっぱい
 さあさあ陽気に行くよ
 ありがとう、可愛い子供たち!』」

 三月の二週目のある日の朝、フィリスはこんな歌を歌っていました。
 リンゴの老木のてっぺんの大きな枝に、赤い胸のコマツグミが、小さな女の子の歌を気に入ったものかどうか、あやぶむ様子で止まっていました。
 ですが、女の子が地面にコマツグミの朝ごはんにと穀物を撒くのを見ると、疑問は吹き飛んだようでした。
 コマツグミは低い枝へと飛び移りました。そして小さな頭をかしげ、片方の目で、親しげにフィリスを眺めました。
「降りてらっしゃい!」フィリスは言いました。「戻って来てくれてとても嬉しいの。このリンゴの木にまた来てくれて、その力強い澄んだ歌声が聴けて本当にうれしいの!」
「チルルルル! チルルルル!」そしてコマツグミは、さらに近くへと跳ねて来ました。
「ほら」フィリスはなだめるような声で続けました。「わたしのお兄ちゃんのジャックはね、これぞ男の子って感じなんだけど、今年最初にコマツグミを見つけるのは自分だって言ったの。
 でも、注意深く周りを眺めて、じっと耳を済ませていれば、小さな女の子でもお兄ちゃんより先にコマツグミをみつけられるって思ったの。
 思ったとおり、今朝最初に聞こえて来たのはあなたの可愛い歌声だった。いつこっちに来たの? ちょっと早くはないかしら?」
 このときにはもう、コマツグミは地面に降り立って、穀物をせっせとついばんでいました。そして、朝ごはんを食べながら、コマツグミは自分の物語を話して聞かせてくれたのでした。
「僕は冬の間、ずっと南にいたんだ」コマツグミは言いました。「南の国はとても美しいんだ。食べ物もどっさりあるし、昼は長い。お日様の光は金色で、明るくて、暖かいんだ。
 でも、春が近づいて来るにつれ、僕は落ち着かなくなってきた。僕の古い母国で、雪が溶け始めて、緑の草が伸びて来るのはわかっていた。だから、すぐに北への旅を始めたかったよ。
 僕は小さなつれあいにその話をして、つれあいも僕と同じように故郷が恋しいんだとわかった。だから僕たちは、今年は普段より少しだけ早く北へと戻って来て、他の仲間たちより早く着いたんだ。僕たちは今、新居を整えたくてたまらないから、もう巣をかけるのにぴったりの場所を探し始めたんだよ」
「もしあなたがうちの近くに巣をかけてくれるのなら」フィリスは言いました。「わたしはあなたのヒナたちの世話を手伝えるわ。あなたたちが食べるパンくずを撒いてあげる」
「おや! おや!」コマツグミはさえずりました。「君はとても優しいんだね、フィリス。でも、どうやら鳥のヒナが何を食べるのかについては、あまり詳しくないようだ。
 知ってのとおり、僕たちのヒナは、小さな羽虫や、イモムシといった、あらゆる種類の虫が大好物でね、だからパンくずよりも太ったイモムシのほうがいいんだよ。
 ときにはベリーや小さな果物をあげたりもする。大人の鳥たちはいつも果実を食べるけど、本当のところを言うと、イモムシや羽虫のほうが好きなんだ」
「コマツグミたちは、去年、うちの桜の木の、上のほうの実を全部食べてしまったわ」フィリスは言いました。
「ああ。僕たちは君のサクランボをいくつか食べた」コマツグミは認めました。「とても甘くて汁気たっぷりだったよ。
 人間の中には、僕たちコマツグミを邪魔な奴だって言う人もいる。僕たちがたくさんの果実をダメにしてしまうから、近づけたくないんだって言っている。でも実際のところ、僕たちは果樹園やベリー畑に、害よりも益のほうを多くもたらしているんだ。考えてみてくれ、僕たちが食べる虫の量はどれくらいなのかって! もし僕たちがいなかったら、もっとたくさんの果物が、虫によってダメになるだろうね。そしてイモムシや毛虫がそこら中を這い回るだろう。
 コマツグミはとても大食漢なんだ。だからほぼ一日中食事をしている。僕がこの鳥生でどれだけの虫を食べたかなんて、とてもじゃないけど語りつくせない。
 あそこにヨトウムシがいるけど、あいつらは土の中で暮らしているんだ。夜になると、食べ物を探しに出てくる。僕たちコマツグミは早起きだから、ノロマなイモムシが土の中の言えに戻る前にいつも捕まえてしまうんだ」
「まあ」フィリスは笑いました。「だから、早起き鳥は虫を捕まえるって、言われているのね」
「ヒナが孵ると」コマツグミは言いました。「僕たちはとても忙しくなる、本当に。幼鳥の口はいつも大きく開いていて、もっと食べ物をってねだるように思えるんだ。
 僕の母さんが言うには、僕がヒナのころは一日中忙しくしていたそうだ。
 そのときは、四羽のヒナが巣にいた。僕は一日に二十匹のイモムシを食べたよ。僕の兄弟姉妹も僕と同じくらいよく食べた」
「このリンゴの木に巣を作るの?」フィリスは尋ねました。「わたし、とってもあなたを見ていたいわ。それに、すぐ下の庭には、何百万もの虫たちがいるし」
「ああ、そうだよ」コマツグミは答えました。「僕たちはここに作るつもりでいる。コマツグミは君の家の近くに巣を作りたがってるって、すぐにわかるだろう。僕たちコマツグミは、人間は友達だと感じている。だから芝生を跳ねていたり、朝早くに窓の近くで歌って君を起こしたりするんだ」
「コマツグミは巣を作るのはあまり得意じゃないって聞いたわ」フィリスは言いました。「だから、ひどい嵐が来る度に、たくさんのコマツグミの巣が吹き飛ばされてしまうんだって」
「考えたくないほどたくさんの巣が壊れてしまう」コマツグミは言いました。「でも父さんと母さんは、去年は自分たちの巣で、三回ヒナを孵したんだ。
 春の早い時期、父さんと母さんは巣を作るのでとても忙しかった。最初に小枝や、藁や、雑草や、根っこを持って行った。これを使って大きな枝の間に巣の基礎を作るんだけど、とても不安定に見えてしまうだろう。
 それから、この基礎の上に、藁や雑草を使って丸い巣を編むんだ。それから、泥で隙間を塞ぐ。内側には柔らかい草やコケを張る。
 この巣に母さんは、綺麗な青緑の卵を四つ産んだ。最初に割れた卵から出てきたのが僕だ。残りの三つからは、弟と妹たちが出てきた。
 僕たちは可愛らしいヒナではなかった。鳥のヒナは最初は可愛くないって僕は思う。僕たちは羽根が生えていなくて、口はとても大きくて黄色かった。
 僕たちは常にお腹を空かせていたけど、それはとても早く育つからだ。どんな小さな音でも聞こえたら、僕たちはいつも大きく口を開けた。どんな音でも父さんと母さんの羽ばたきに聞こえたんだ。父さんと母さんは、いつもとてもすてきな食べ物を持って来てくれた」
 コマツグミはまた話し始める前に、朝食を数口ついばみました。それから、鳥生の残りについて話してくれました。
「飛び始めたときのことはよく憶えている」コマツグミは言いました。「母さんがどんなふうに、翼を使ってごらんって言ってくれたのかを。僕たちがどれだけ、臆病でか弱かったのかも。妹の片方が地面に落ちたとき、大きな灰色の猫が妹を捕まえてしまったんだ。
 僕たちの翼はとても弱くて、羽根もまだ短いままだった。そして胸もこんなに綺麗な赤い色じゃなかった。くすんだ白っぽい色で、黒い模様が入っていた。
 僕の母さんの胸は、父さんの胸ほど赤くなかった。母さんの羽根は淡い色合いで、父さんのように上手に歌えなかった。でも母さんはとても幸せそうだったし、自分のヒナたちにはとても優しい声をかけてくれていた。
 僕たちは巣立ったあとは、自分で自分の面倒は見れるようになっていたから、母さんは同じ巣にまた青緑の卵を四個生んだ。そんなにしないうちに、庭にはまた四羽のコマツグミのヒナの声が聞こえるようになった。
 巣作りの季節がかなり遅くなったころ、僕の父さんと母さんはまたヒナを孵そうとした。でも、これは不幸な結果に終わってしまった。ひどい嵐がやってきて、木の枝をへし折って、四つの青い卵を壊してしまったんだ。
 この不幸のすぐあとに、コマツグミたちは冬を過ごすために南へと飛んで行った。
 僕の弟は、いつも勇敢で陽気な奴だったから、ここに留まりたいって思ったかもしれない。あいつはいったいどうしたんだろう。まだ会えていないんだ」
「最近その子に会えてはいないけど、冬の間はずっとここにいたわ」フィリスは言いました。「だからきっとすぐに会えるわよ」
「そうだね」コマツグミは言いながら、最後の小麦の粒をついばみました。「ありがとう、フィリス。すてきな朝ごはんだった。
 挨拶だけしておくよ。君とはまた会えるだろうから。もしかしたら、巣をかけるところを見せるかもね」
「こちらこそありがとう」フィリスは言いました。「お兄ちゃんの窓の近くに桜の木があるでしょう。あなたが朝の歌を歌ったのはそっちだったかもしれないもの」


訳者補足:原文では robin とだけ書かれている鳥ですが、作者はアメリカ人であり、この章の最後の説明を読むとこの鳥が英名をAmerican Robin、和名をコマツグミという鳥であることがわかります。コマドリは赤い顔ですが、コマツグミは顔が黒いのです。また、卵もコマドリは白っぽい青ですが、コマツグミは鮮やかな青緑の卵を産みます。
 このページはもともとは挿絵が入っていたそうなのですが、喪失したそうでプロジェクト・グーテンベルグには掲載されていませんでした。
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