鳥はどうやって羽根を手に入れたか(イロコイ族の神話)

文字数 2,103文字

 その夜、家族がみんな炉辺に座っているとき、フィリスはモミの木立ちにいる勇敢なコガラたちのことを考えていました。
「あの子たちは本当にみんな暖かくしていられるのかしら」フィリスは言いました。「羽根ってそんなに暖かいの、お母さん? どうして鳥たちは毛皮ではなく羽根が生えているの?」
「先住民族の言い伝えに、鳥がどうやって羽根を手に入れたかというのがあるわ」お母さんは言いました。「椅子をこっちに寄せたら、話してあげましょう」
 そして子供たちは椅子を炎の光の近くに寄せ、先住民族のこの小さなお話に耳を傾けました。
「あるとき、小さな先住民族の子供たちが」お母さんは話し始めました。「鹿の毛皮のテントの中で、火の周りに集まって、お母さんにお話をねだりました。
 どの先住民族の子供も、鮮やかな毛布にくるまっていました。そして、髪にヒメコンドルの長い羽根を挿していました。
 先住民族のお母さんは、いずれ戦士になる子供たちを誇らしげに見ました。そして、この子供たちがまだ小さな赤ん坊で、巣の中にいる鳥のように、鹿の皮の揺りかごで寝ていたときのことを考えました。
『昔むかし』先住民族のお母さんは言いました。『まだ鳥たちに羽根がなかったころのお話です。
 裸だったので、鳥たちは葉っぱの間に隠れていました。恥ずかしかったのでずっと黙っていて、鳥たちの歌声が森に楽しそうに響くことはありませんでした。
 ついに、お母さん鳥たちがかすかな声をあげ、偉大な精霊様に祈りを捧げて、小さな者たちをくるんでくれる毛布を願いました。
 すると偉大な精霊様は、その哀れな苦境を見てとり、鳥たちに使いを送って、すべての鳥たちのために身を包むものはもう用意してある、とお告げになられました。
 そして使いは、これからはどの鳥も一族ごとに、同じ装束をまといさい。そうすれば森の人たちは、鳥を見てすぐに、その鳥がどの一族の鳥なのかわかるでしょう、とも言いました。
 ですが、なんということでしょう! 使いは、その装束ははるか彼方にあるとも言ったのです。そして自分ではその装束を森まで持って来れないと。鳥たちは自分たちの中から、辛い試練の旅に耐えられる一番強い翼を持った者を選んで、装束を取りに行かせなければならないのです。
 哀れな羽根のない鳥たちは、恐れを知らず力が強いのは誰かと周りを見回しました。そしてこの長い旅に出てくれないかと、何羽かの鳥に持ちかける会議が行われました。
 ですがそろいもそろってどの鳥も、なんらかの言い訳を口にしました。ある鳥たちは、まだ巣にヒナがいて世話をしなければならないと言いました。ある鳥たちは年を取り過ぎていて、長旅は無理だと言いました。またある鳥たちは、若すぎて道がわからないと言いました。
 病だと言う鳥や、旅に出るのは弱すぎると言う鳥。本当に、鳥たちは今までと変わらないみじめな状況にいたのです。
 ついに、一羽の鳥が進み出ましたが、本当のことを言うと、その鳥は仲間の鳥たちに、あまり気に入られているとは言えませんでした。その鳥こそがヒメコンドルです。
 ヒメコンドルは羽根の装束を持ち帰るための長旅に出る重責を担う代わりに、もし自分が目的を達成できたら、もっとも美しい羽根の衣装を、この先ずっと自分の一族に纏わせてほしいと言いました。
 他の鳥たちはそれに同意し、羽根のないヒメコンドルは飛び立ちました。
 それは本当に長くて危険な旅でした。あわれなヒメコンドルは、疲れと餓えで何度も落ちそうになりました。時には、あまりにもお腹が空いたので、道に落ちている死んだ動物の肉を食べるしかないときもありました。あまりにも何度もそうしたので、しまいにはヒメコンドルはそれが好きになりました。
 そうして、何日も経ったとき、ヒメコンドルは偉大な精霊様のもとへとたどり着き、羽根の装束を手に入れました。
 ヒメコンドルはすぐに、その衣装にざっと目を通しました。そして、一番美しい羽根の装束を、自分と自分の一族のために選ぼうとしました。
 すぐに、ヒメコンドルはとても豪華な色合いの装束を見つけました。それを着てみてから、水面に自分の姿を映してみました。とても美しい装束です。満足したヒメコンドルは、他の装束をかきあつめて、帰途に着きました。
 ところがです! その新しい装束はとても美しかったのですが、着心地が良くなかったのです。ヒメコンドルその新しい装束を着ていては、上手には飛べないと気づきました。ヒメコンドルは次から次へと他の色鮮やかな装束を試しましたが、どれも着心地の良いものではありませんでした。
 ついに、とても落胆しながら、ヒメコンドルは簡素な黒っぽい装束を纏いました。この装束はまったく美しくはありませんでしたが、とても滑らかで着心地が良かったのです。それを着てヒメコンドルは帰りの道を行き、そしてそれからというもの、ヒメコンドルの一族は満足してその姿でいるのです。
 そして、ヒメコンドルたちは、遠くまで飛べず滑らかな飛行もできない鳥たちのために、豪華な装束を喜んで残したのでした』」


訳者補足:偉大な精霊様は原語ではグレートスピリッツ
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