北国の伝説(フィービー・ケイリー作)

文字数 1,312文字

 遠い遠い北の国
 冬になれば昼はとても短く
 夜の時間はとても長くて
 ずっと眠ってはいられない

 雪の降る季節がきたら
 素早いトナカイを橇につなごう
 おかしな毛皮の服を着た
 子供らはまるでクマの子みたい

 彼らは不思議な話をしてくれた――
 それが真実だとは思えない
 でもこの話をあなたにしたら
 教訓を学べるかもしれない

 かつて、良き人の聖ペテロが
 下の世界に住んでいた
 歩き回っては教えを説いた
 いつもそうしていたのは知ってのとおり

 地上を旅して回っていたとき
 ペテロは小さな家のドアをくぐった
 そこでは小さな女が菓子を作り
 炉でそれを焼いていた

 日がほとんど暮れかけていたそのとき
 ペテロは断食していたので気が遠くなりかけていた
 ペテロは焼きあがった菓子の中から
 ひとつだけ恵んでくれないかと頼んだ

 そして女はとても小さな菓子を作った
 でも菓子を焼いているとき
 女は菓子を見て思った
 これでもまだ大きすぎると

 そこで、女はもうひとつ菓子を作った
 もっとずっと小さいものを
 でもそれをひっくり返してみると
 最初のものと同じ大きさだった

 そして女は生地のくずを手に取って
 丸めて丸めて平たくした
 そしてウェハースのように薄い菓子を焼いた
 でもその菓子を手渡すこともできなかった

 そして女は言った「このお菓子はどれも
 私が食べるには小さすぎる
 でもあげるには大きすぎる」
 そして女は菓子を棚にしまった

 すると、聖ペテロは怒った
 お腹が空いて気が遠くなりそうなのだ
 この女の振る舞いはどう見ても
 聖者が怒らせるのに充分だ

 そしてペテロは言った「お前はとてもわがままだから
 人の姿はもったいない
 食べ物も家も持っていて
 暖を取るための火もあるなんて

 これからお前は鳥のように家を建てなさい
 そしてわずかな餌を取るために
 つついて、つついて、つつくのだ
 日がな一日硬く乾いた木を」

 そして女は煙突を上がっていった
 言葉はひとことも発しなかった
 てっぺんから現れたのは一羽のキツツキ
 女は鳥に姿を変えられたのだ

 女は頭に緋色の帽子を被っていた
 それはそのまま残っていた
 だが残りの衣服はすべて焼け
 炎の中の石炭にように黒くなっていた

 田舎の子供たちは誰も皆
 森でその女を見たことがある
 女は今も木の中で暮らし
 餌のためにトントンとつついている

 そしてこれが女の残した教訓だ
 自分のためだけに生きてはいけない
 あなたが気の毒だと思えないできごとが
 いつかあなたの身に振りかかるのかもしれないのだから

 たくさん与えなさい、あなたがもらったものを
 苦しむ者の声に耳を傾けて
 与えるものを少ないと思ってはいけないし
 手に入るものの多くは小さい

 さあわが子よ、これを憶えておいて
 そして優しく善良になろうとしなさい
 キツツキのすすけた羽根や
 赤い帽子を見たときは

 仮に身勝手に生きたとして
 鳥に変えられたりはしないだろう
 でももっと小さなものに変わることはあるだろう――
 意地悪で身勝手な人間とか

Used by permission of and special arrangement with Houghton, Mifflin & Co.
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