フクロウとワタリガラス

文字数 3,360文字

 昔々、フクロウとワタリガラスはとても仲の良い友達でした。
 二羽は同じ小川のほとりに住んでいました。巣は隣同士です。同じ歌を歌い、同じ食べ物を食べました。纏う衣服も同じ淡い灰色です。
 フクロウもワタリガラスも、相手のためにしないことはありませんでした。二羽の友情はとても固く、いつもおたがいを驚かせたり喜ばせたりする方法を探していました。
 あるとき、ワタリガラスは丸二日間、姿を見せませんでした。
「ワタリガラスは何をしているのかしら?」フクロウは独り言を言いました。「私を驚かせようと新しい計画を練っているのはわかってるけど」
 三日目に、ワタリガラスが戻って来ると、フクロウはワタリガラスがとても満足そうな様子なので、何かとても素晴らしいものを贈ってくれるのだろうと思いました。
「今回くれるのは、カブトムシや野ネズミより、ずっと良い物みたい」フクロウは思いました。「こっちは何をしてあげられる? ワタリガラスはいつも私にとてもよくしてくれるのに!」
 そうして、フクロウはワタリガラスにあげられるものを探し始めました。
 二羽が巣をかけている木の近くの海岸では、かつて巨大なクジラが人間の漁師によって捕らえられてさばかれたことがありました。そのクジラの骨がいくつか、今でも砂浜には残っています。
「あら」そのクジラの骨に気づいたフクロウは、そう声をあげました。「私の大切な友達のワタリガラスが、とてもよろこんでくれるものがわかった!
 これでワタリガラスに綺麗なクジラの骨のブーツを作ってあげましょう! それがあれば、鋭い石の上や凍った崖の上を、安全に楽々と歩けるもの!」
 そしてすぐにフクロウは砂の上に座り込むと、作業に取り掛かりました。ブーツができるのに、そんなに長い時間はかかりませんでした。ブーツは見事なまでに滑らかで、ほっそりとして、美しいできばえでした。
「ワタリガラスは嬉しくてたまらなくなるでしょう」フクロウはそう言いながら、ブーツを巣のある木まで運びました。「おうちにいますように!」
 フクロウが木に近づいて行くと、ワタリガラスがフクロウを呼んでいるのが聞こえました。大きな声で返事をしながら、フクロウはワタリガラスのいるところへ急ぎました。ですがワタリガラスがフクロウを見る前に、クジラの骨のブーツを草の中にさっと隠します。というのも、自分のほうがあとで驚かせたかったのです。
 フクロウが気づくと、ワタリガラスは落ち着きなく飛び跳ねながら、大きな声でフクロウを呼んでいました。
「ここよ――ここにいる!」フクロウは叫びました。「外していたけど、ほんのちょっとよ――でもあなたは丸二日いなかった!」
「ああ、フクロウさん」ワタリガラスは答えました。「僕は留守にしていたけど、その間ずっと君のことを考えていたんだ!
 ほら! 君のために作った新しい服だよ!」そしてワタリガラスは、友達の前に黒と白のまだら模様の美しい服を広げました。
 その服はそれはそれは柔らかくて美しい羽根でできていて、どんな鳥でも心を躍らせるほど素晴らしいものでした。
「まあ、なんて美しいの!」フクロウは叫びました。「あなたはいつもよくしてくれるのね! こんなすてきなことをどうやって思いついたの?」
 ワタリガラスは喜んで微笑みました。
「着てみてくれ」ワタリガラスはいいました。「君にぴったりだと確信してる。この服を着た君はきっととても綺麗に見えるから、二度と白と黒以外の色を着なくなるだろうね」
 フクロウはさっと古い灰色の服を脱ぎ捨てて、新しいすてきな衣装を身に纏いました。そっと羽ばたくと、黒と白の柔らかな羽根が揺れます。
「これをどこで手に入れたの?」身体をねじって尻尾を二十回目に眺めながら、フクロウは尋ねました。
「座ってくれ」ワタリガラスはそう指示しました。「それから話すよ!」ですのでフクロウは、ワタリガラスの隣の枝に止まりました。
「その羽根は海の近くにある、険しい岩の崖で見つけたんだ」ワタリガラスは言いました。「岩はとても鋭かったし、吹きつける風のせいでへとへとになったけど、とうとう僕は思ったとおりの服を作り上げたんだ。
 君が喜んでくれて嬉しいいよ。僕はすごく疲れたから、ここでおとなしく座って休まなくちゃ」
 フクロウはとても嬉しかったので、つかの間クジラの骨のブーツのことを忘れてしまっていました。そしてワタリガラスのほうを見ると、羽根を集めたときに足の指が一本、折れてしまっているのが見えました。
 小さな哀しみの叫びと共に、フクロウはブーツを隠しておいた草むらめがけて飛んで行きました。すばやくブーツをつかむと、フクロウは疲れきった気の毒なワタリガラスのもとへ舞い戻ります。
「見て」フクロウは叫びました。「見て! ――あなたがいない間、ずっとあなたのことを考えていたの。その疲れた足にこの丈夫なクジラの骨のブーツを履いてちょうだい。これで石や氷があっても、二度と足が傷つくことはない」
「ああ、ああ!」ワタリガラスはしわがれた声をあげました。「これこそ、僕がずっと欲しかったものだよ!」
「履いてちょうだい! 履いてちょうだい!」フクロウは叫びました。「あなたの助けになる。若返ったような気持ちになれる!」
 ワタリガラスは疲れのたまっている足を、クジラの骨のブーツに滑り込ませました。すぐに古い疲れの痛みは消えてなくなり、ワタリガラスは元気に跳ね回って陽気に喋りました。
「なんと素晴らしい!」ワタリガラスは言いました。「じつにピッタリだ! とても快適だよ」
「これからあなたにコートを作らせてちょうだい」フクロウは言いました。「純白にしましょう。一番ピカピカで綺麗な羽根をみつけてくるから」
 ほどなく、ワタリガラスの白いコートはほぼ完成しました。
「来て」フクロウは指示しました。「あなたのコートの仕上げをするから、じっとしていてね」
 ワタリガラスはやってきましたが、クジラの骨のブーツのおかげで上機嫌になっていたため、じっとしていられませんでした。フクロウが作業をしている間、ずっと跳ね回ったり踊ったりしていたのです。
「じっとしてて!」フクロウは叫びました。「そう跳ね回られちゃ何もできない。あなたに直接、飾りの羽根を突き刺してしまう!」
 つかの間、ワタリガラスはじっとして、ブーツを眺めました。それから突然飛び上がったので、フクロウは爪いっぱいにつかんでいた柔らかな白い羽根を落としてしまいました。その羽根を、首周りの仕上げに使うつもりだったのです。
 フクロウはかんかんに怒りました。
「じっとしてて!」フクロウは大きな声で言いました。「今度飛び上がったら、あなたにランプの油をぶっかけてやる!」
 ランプには、クジラの油がたくさん入っていました。コケとねじれた草でできた芯を、その中で燃やして使うのです。何本もの芯をずっとその中で燃やして来たので、油はすすのように真っ黒になっていました。
 カラスは真っ黒にすすけた油を見て、それから新しい白いコートを見ました。そして二分間は、本当にじっと動かずに立っていました。
 フクロウがコートの丈をもっと長くして、新しいブーツの上にかかるくらいにしようかどうか決めようとしていたとき、ワタリガラスは澄んだ水の面に映る自分の姿を見てしまいました。
 その姿にとても喜んだワタリガラスは、ぱっと翼を開いて飛び跳ねてしまったのです。
 まだ留めていなかった白い羽根は、あらゆる方向に飛び散りました。飾りの羽根は地面に落ちました。フクロウは怒って息もできないほどでした。
 かっとなったフクロウはランプをつかみました。それをワタリガラスに投げつけます。ああ、なんと気の毒なことでしょう! 油はワタリガラスの頭に命中し、全身を伝って流れ落ちたのです! すべての羽根がぐっしょり濡れてしまいました!
「カー! カー!」鳴くカラスの全身から、油がしたたり落ちていました。「カー! カー! 君とは二度と口をきくもんか!」
「ええ」フクロウは言いました。「二度と私に話しかけないで。あなたのようにすすけた友達はいらない!」そして、フクロウは飛んで行ってしまいました。


訳者補足:日本の昔話『フクロウの染物屋』と少し似ていますね。
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