第13話「進路の話をしながら一緒に帰る。」

文字数 926文字

 11月になり肌寒い季節がやってくると、僕は自転車通学の際に手袋を装着するようになった。
 とある火曜日。登校してすぐに廊下で彼女と顔を合わせた。
「おはよう。」
「おはよう。」
「ねえ。今日の放課後、一緒に帰らない?」
「そうしようか。」
 およそ2か月ぶりになるので緊張する。

 そして放課後。僕らは並んでバス停の方に歩いていると、彼女が思い出したように僕の顔を見た。
「そういえばあなた、進路は決まったの?」
「ある程度はね。心理学部のある大学を目指そうと思ってるんだ。」
「どうして心理学なの?」
「なんとなくだよ。」
「そうなんだ。心理学ってあなたらしい気がするわ。心理カウンセラーになるの?」
「そこまでは決めてない。先になってみないと分からないな。」
「そっか。」
 彼女は微笑みながら足元の方に顔を向けた。
「私はね、大学で社会福祉を専攻をしようと思うの。」
「どうして社会福祉なの?」
「“なんとなくよ”」
「社会福祉の仕事に就くの?」
「"先になってみないと分からないわ"」
 彼女は からかうように僕の真似をして顔を覗き込み、2人で笑い合った。懐かしいやり取りに思わず泣きそうになった。彼女からは心を動かされてばかりだ。
 ただ、彼女と“男女の関係になりたい”とは思わなくなっていた。いや、その気持ちもあるが、仕方がないと諦めるようにした。

 僕が目指している大学は2つ隣の駅なので、実家から通学する予定だ。彼女が目指す大学は12個離れた駅にあり、一人暮らしをする予定らしい。
「一人暮らしなら色々と気を付けてね。」
「ありがとう。でも受かったらの話よ。」
 彼女は小さく笑った。
「私のことを心配してくれてるのね。」
「それは、まあ。」
「ありがとう。」
 そう言って僕の頬をつついた。懐かしい。

「でも私に何かあったら、あなたが助けに来てくれるんでしょう?」
 彼女はニヤリと笑いながら僕の顔を覗き込んだ。またこんな事を言って、彼女を諦めかけていた僕の心を惑わせてくる。
「えっと、それは、もちろん。12個も離れた駅だから時間が掛かるかもしれないけど。」
「そんな細かいところはいいのよ。」
 彼女はまたクスリと笑った。

 それから僕達は大学の試験に向けて勉強に集中し、一緒に帰ることはなくなった。
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