第22話「私は絶望した。」
文字数 1,509文字
「放課後の教室で私が泣いたのを覚えてる?」
「覚えてるよ。」
「その時にね、私はあなたのおかげで感情を取り戻したの。8年間も止まっていた感情が一気に動き出すわけだから、体はそれを受け止めることができなかったのよ。私は40℃の熱を出して寝込んだ。生まれて初めて学校を休んだわ。
あたたと出会った時から交際したいと思っていたけど、そんなこと初めてだからどうすればいいか分からなかったのよ。
そうして高校を卒業して大学に入ると、少しずつ私の感情は体に馴染んでいった。今までとは違う環境で色んなものに触れて、世界には楽しい事があるかもしれないと思い始めたの。空っぽだった私の世界に少しずつ色がついてきた。
私は同じ大学の2つ上の先輩と交際し始めた。彼は知的で優しい人だったわ。大人で見た目もかっこよくて、私によく尽くしてくれた。私も彼に尽くした。幸せってこういうことかもしれないと思ったわ。
2人の関係も落ち着いた頃、私は彼に同棲を提案してみた。何事もハッキリと答える彼が、その時だけは言葉を濁したの。でも私はそのことについて深くは考えなかったわ。
彼と交際を始めて約1年後のある日。私が大学の廊下を歩いていると、通りかかった教室から彼の声が聞こえたの。どうやら他の先輩と話しているようだった。私は良くないと思いながらも隠れて彼の話を聞いてみた。
そして私は絶望した。
簡単に言うと彼には本命の彼女が別にいて、私は遊び相手だったのよ。体目当てってこと。人間はそういうものだと知っていたのに、自分が“そちら側”になってるなんて考えもしなかった。恋は盲目ってやつね。
涙は出なかったわ。私は家に帰り、彼にメッセージを送って別れを告げた。彼は引き止めたり家に来たりもしてこなかったわ。私も彼のことを言いふらしたり復讐しようなんてことも考えなかった。何もかもどうでも良くなったし、世界とはそういうものだから。ただ日常に戻っただけ。」
僕は泣いていた。
彼女は僕の涙を拭い、優しく頭を撫でた。
「ごめんね。」
「いや、辛い思いをしたのは君の方なのに。」
「いいのよ。私のことを想って泣いてくれたんでしょう?」
そう言って頬に口づけした。僕が泣き止むまでの間、彼女は黙って頭を撫でたり頬を触ったりしていた。
「あなたが泣いているところを見たのは2回目だわ。」
「君が僕の感情を取り戻してくれたんだ。」
「私と同じね。」
彼女は僕の頬をつついてから話を続けた。
「そうして再び生きる意味を失くした私は大学にも行かず、アルバイトも辞めて家にこもるようになった。前のように“いい子”でいることはできなかったわ。もう疲れたのよ。それで昨日の有り様だったってわけ。」
「同窓会には無理して来てたんだね。」
「そう。あなたに会えるかもしれないと思ったから。」
「僕もそうだよ。」
彼女はタバコを2口だけ吸ってすぐに火を消すと、下を向いて溜め息をつきながら首を横に振った。
「何もかもどうでも良くなって家に引きこもっていたけれど、あの子の散歩だけは欠かさず行っていたわ。私は犬に助けられてばかりよ。それなのに私は。」
彼女は犬がいる部屋の方を見ながら「ごめんなさい」と囁いた。
「このタバコもね、彼が吸ってたから私も同じのを真似して吸い始めたの。彼に絶望して別れたのに今でも止められないなんて馬鹿みたいでしょう?」
彼女は皮肉っぽく笑った。
「タバコを止められないのは仕方ないよ。ニコチンは依存性が高いから。」
「そういうことじゃないわよ。」
彼女はクスリと笑って頬をつついた。
「あなたが私の感情を取り戻したから、再び世界に絶望することになった。あなたのせいよ。だから責任取って。」
「覚えてるよ。」
「その時にね、私はあなたのおかげで感情を取り戻したの。8年間も止まっていた感情が一気に動き出すわけだから、体はそれを受け止めることができなかったのよ。私は40℃の熱を出して寝込んだ。生まれて初めて学校を休んだわ。
あたたと出会った時から交際したいと思っていたけど、そんなこと初めてだからどうすればいいか分からなかったのよ。
そうして高校を卒業して大学に入ると、少しずつ私の感情は体に馴染んでいった。今までとは違う環境で色んなものに触れて、世界には楽しい事があるかもしれないと思い始めたの。空っぽだった私の世界に少しずつ色がついてきた。
私は同じ大学の2つ上の先輩と交際し始めた。彼は知的で優しい人だったわ。大人で見た目もかっこよくて、私によく尽くしてくれた。私も彼に尽くした。幸せってこういうことかもしれないと思ったわ。
2人の関係も落ち着いた頃、私は彼に同棲を提案してみた。何事もハッキリと答える彼が、その時だけは言葉を濁したの。でも私はそのことについて深くは考えなかったわ。
彼と交際を始めて約1年後のある日。私が大学の廊下を歩いていると、通りかかった教室から彼の声が聞こえたの。どうやら他の先輩と話しているようだった。私は良くないと思いながらも隠れて彼の話を聞いてみた。
そして私は絶望した。
簡単に言うと彼には本命の彼女が別にいて、私は遊び相手だったのよ。体目当てってこと。人間はそういうものだと知っていたのに、自分が“そちら側”になってるなんて考えもしなかった。恋は盲目ってやつね。
涙は出なかったわ。私は家に帰り、彼にメッセージを送って別れを告げた。彼は引き止めたり家に来たりもしてこなかったわ。私も彼のことを言いふらしたり復讐しようなんてことも考えなかった。何もかもどうでも良くなったし、世界とはそういうものだから。ただ日常に戻っただけ。」
僕は泣いていた。
彼女は僕の涙を拭い、優しく頭を撫でた。
「ごめんね。」
「いや、辛い思いをしたのは君の方なのに。」
「いいのよ。私のことを想って泣いてくれたんでしょう?」
そう言って頬に口づけした。僕が泣き止むまでの間、彼女は黙って頭を撫でたり頬を触ったりしていた。
「あなたが泣いているところを見たのは2回目だわ。」
「君が僕の感情を取り戻してくれたんだ。」
「私と同じね。」
彼女は僕の頬をつついてから話を続けた。
「そうして再び生きる意味を失くした私は大学にも行かず、アルバイトも辞めて家にこもるようになった。前のように“いい子”でいることはできなかったわ。もう疲れたのよ。それで昨日の有り様だったってわけ。」
「同窓会には無理して来てたんだね。」
「そう。あなたに会えるかもしれないと思ったから。」
「僕もそうだよ。」
彼女はタバコを2口だけ吸ってすぐに火を消すと、下を向いて溜め息をつきながら首を横に振った。
「何もかもどうでも良くなって家に引きこもっていたけれど、あの子の散歩だけは欠かさず行っていたわ。私は犬に助けられてばかりよ。それなのに私は。」
彼女は犬がいる部屋の方を見ながら「ごめんなさい」と囁いた。
「このタバコもね、彼が吸ってたから私も同じのを真似して吸い始めたの。彼に絶望して別れたのに今でも止められないなんて馬鹿みたいでしょう?」
彼女は皮肉っぽく笑った。
「タバコを止められないのは仕方ないよ。ニコチンは依存性が高いから。」
「そういうことじゃないわよ。」
彼女はクスリと笑って頬をつついた。
「あなたが私の感情を取り戻したから、再び世界に絶望することになった。あなたのせいよ。だから責任取って。」