第１８話「再会」

「久しぶり。」　

　声の方を振り向いてみると、彼女がいた。

　彼女はピンクのドレスに白のネックレス、黒のパンプスを履き、黒の小さなバッグを首から斜めに下げていた。茶色に染めた髪を上に持ち上げてまとめていた。その髪型の名前は分からない。
　彼女は僕の顔を覗き込み、小さく手を振りながらこちらにやって来た。心臓が口から出そうなほど鼓動が速まる。
「元気にしてた？」
「変わらずだよ。君は？」
「私も、まあ、それなりかな。」
　僕は彼女の美しさに見惚れて固まっていた。

「そんなに見られたら恥ずかしいじゃない。」
　化粧をしているので分からないが、彼女は顔を赤らめていたような気がする。
「ごめん。」
　僕は慌てて顔を背ける。およそ2年ぶりのやり取りだ。
　そして彼女は からかうように僕の顔を覗き込んだ。
「私、そんなに可愛くなってる？」
「あ、えっと、うん。」
「ありがとう。」
　彼女は綺麗にセットされた髪を軽く触って、崩れていないか確認した。完璧に仕上がっているから心配ないのに。

　お互いに黙って次の言葉を探していると、近くを通った同級生の女の子が彼女に声をかけて腕を絡めた。仲の良かった女の子達で写真を撮ろうといった誘いだった。
「ごめん。また連絡するね。」
　彼女は小さく手を振りながら立ち去った。もう少し話していたかったが、仕方ない。
　彼女は変わらず人気者で、あの頃と同じ笑顔で同級生と接していた。僕は群衆の中に埋もれていく彼女を眺めてから会場を後にした。

　家に帰ってベッドに横たわり、僕は同窓会で見た彼女の姿を思い浮かべようとした。上手く思い出せなかったが、彼女の下手な笑顔だけが頭に残っていた。
　僕は思考を止めるため、冷蔵庫に入っていた350mlの缶ビールを一気に2本飲んで眠った。

　彼女からの連絡は来ないような気がした。だがそれも仕方ないことだ。
　彼女はきっと彼氏とも上手くやっているだろうし、僕は彼女と出会う前の生活に戻るだけだ。何も不自然なことは無い。

　やはり彼女からの連絡は無かった。