第14話

文字数 620文字

「わたくしはこの城の城主、乙姫と申します。浦氏又郎様。このたびは亀を助けていただき、ありがとうございました」
 礼を言われ、かしこまる又郎。
「滅相もありません。自分は当然のことをしたまでで」
「謙遜されるなんて、実に奥ゆかしい方です。せめてものお礼に、宴会を催させていただきます。ごゆっくりお楽しみください」
 乙姫はにっこりと微笑み、頭を下げました。
 広間には豪勢な食事が並び、タイやヒラメが華麗な舞を繰り広げます。
「浦氏様。ご満足いただけましたでしょうか?」
「もちろんです。かえって申し訳ないくらいです」美味しい食事とお酒を堪能する又郎。
 久しぶりの酒に気をよしく、乙姫の隣に身を寄せると、酔いに任せて耳元でこうつぶやきました。
「あなたさえよければ、僕の妻になってもらえないでしょうか?」
 途端に顔が真っ赤になった乙姫。
「そんな。わたくしごときが妃になるなど、勿体のうございます」
「そんなことはありません。ひと目見た時から、あなたのことが頭からはなれないのです」
「駄目ですわ浦氏様、お戯れが過ぎます」
「よいではないか」
 すると、乙姫の表情が般若のそれに豹変しました。
「……てめえ、いつまでふざけたこと抜かしてんだ! たかが亀を助けたくらいで調子に乗るんじゃねえよ。身の程知らずもいい加減にしろ!!」
 怒り心頭の乙姫は又郎の首根っこを掴み、往復ビンタを繰り返します。
 すぐさま亀に飛び乗り、又郎は竜宮城を後にしましたとさ。
 めでたし、めでたし。
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