第20話

文字数 619文字

「これは?」
「玉手箱といいます。いいですか、地上に戻っても、決してふたを開けてはなりません」
 どうして開けてはいけないものを土産物として渡すのか、不思議でなりません。
 ですが、せっかくの心遣いを、無下にするわけにはいきません。
 首を捻りながらも、玉手箱を小脇に抱えて、亀にまたがり、元の浜辺に戻りました。
 亀と別れ、又郎は自宅に向かいます。
 しかし、その場所は更地になっていました。
 道を間違えたと思い、又郎は心当たりをあちこち回りましたが、自宅どころか、知っている人に会うことすら叶いませんでした。
 そのうち疲れ果て、又郎は行き倒れになってしまいます。
 そこをたまたま通りかかった老夫婦がいました。
 夫婦はぐったりとして、今にもこと切れそうな又郎を不憫に思い、自分たちの家に連れて帰りました。
 そこで食事を与えられ、介抱されていくうちに、又郎は元気を取り戻しました。
「おじいさん、おばあさん。もう大丈夫です。今まで面倒を見てくれて、ありがとうございました。なにもできませんが、せめてものお礼です」
 そういって玉手箱を二人に渡し、夫婦の家を後にしました。
 翌日、玉手箱の中身が気になって仕方がない又郎は、再び老夫婦宅を訪れました。
 何ということでしょう。
 戸を開けると、夫婦の亡骸が横たわっていました。
 傍らには、ふたの開いた玉手箱が転がっています。
 奇妙なことに、二人とも以前よりも急激にしわが増えていましたとさ。
 めでたし、めでたし。

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