エピローグ-4

文字数 869文字

 フユトは頑なに拒んだ。投身した死体ほど、見ても気分のいいものではない。



 もう一口、バーボンを口にしてから、【蛇】がやはり意味深に言うので、

「何で、シュントがあいつを突き落とすんだよ」

 フユトは怪訝に尋ねる。

 傍から見ていた限り、ルナはシュントに気を許していたし、シュントもルナを気にかけていた。そんなことするなとフユトが口を挟みたくなるくらいには。

「身に覚えがないなら、お前もかなり

だな」

 言って、【蛇】が嗤う。

「いや、だって、シュントは、」

 フユトは言い募る。

 シュントは、依頼がなければ人を害せないし、依頼があったとしても、仕事のあとはしばらく魘される。向いていない道に引き込んでしまったと、フユトはこれも後悔している。

 もちろん、【蛇】だって、シュントの性格はよく知っているはずだ。この男は兄の元顧客で、最近まで頻繁に、二人で会っていたのだから。

「あれとお前はよく似てる」

 フユトの言葉を遮る形で、【蛇】が断言した。

「直情型で衝動に流されやすい、殊、兄弟のことに関しては」

 そこまで言われれば、フユトにも理解できた。

 フユトがシュントに【蛇】との密会を許さなかったように、シュントはフユトの、ルナとの逢瀬が許せなかった。互いに兄弟であって恋人ではなく、性愛関係には無関心で口を挟まない暗黙の了解をしながら、その実、互いが誰かに取られないかと牽制し、少しずつかけ違って拗れながら、

を維持しようとしていた。それでは互いのためにならないとわかっているから、他所に拠り所を求めようとして足掻きながら、残酷な嘘で刺し違えてようやく、箱庭を閉ざした。

 黙り込むフユトの傍らで、【蛇】は密かに、毒牙を構えている。手ずから訣別させた双子はもう、元には戻れないし、戻らない。俯くフユトの項と首筋は、いつでもこうして、目の前に晒すことができる。

 いつか毒牙にかかるまで、フユトには気づかずにいてほしい。全てが仕組まれていたと知った絶望に飲まれ、溺れてしまえばいい。









 【了】
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