三章-5
文字数 1,353文字
シュントがスタンガンを出すと同時に動いたフユトは蹴り開けられたドア口へ立つと、痛みと痺れに蹲ったまま動けない男を見下ろし、
「女からの誘いは呼び水だから、絶対にノるなって教わらなかったんだな」
獰猛に、愉しげに忠告し、対象者の襟首を掴んで室内へ引きずり込む。スタンガンの二撃目を警戒した男は身を竦ませてされるがまま、ドアが閉まる音を聞く。ゆるゆると背後を振り仰いで、室内に待ち構えていたのが、そこそこ名の売れた双子のハウンドだと気づくと、
「……そっか」
独りごちるようにぼやいて、抵抗をやめた。
フユトがコルトで脅すまでもなく、おとなしく従った男はベッドに横たわると、
「悪運が尽きるのも、早かったな」
そう言って、乾いた笑みを浮かべた。
裏稼業をしているだけあって、覚悟は決まっていたのだろう。或いは、既に伝手から、大組織子飼いのハウンドが動き出したとでも聞き及んで、半ば諦めていたのかも知れない。敵に回してはいけない男を敵にした、それが最大の過ちだ。
「安心しろよ、こっちも最大限、利用させてもらうから」
男の顔に枕を押し当て、ベッドに片膝を乗り上げたフユトが冷笑する。
「これでチャラだ」
飛び散る血と悲鳴を打ち消す枕越しに、コルトのトリガーを引いて撃ち込む。鈍い衝撃と歪な苦鳴のあと、後頭部から滲み出た鮮血が白いシーツを染め始め、絶命を確認したフユトはようやく、片膝を下ろして立ち上がる。
もう少し抵抗されるかと構えていたので、予想外に呆気なく終わった。
フユトが端末でハイエナに連絡を入れる傍ら、直接手を下したわけでもないシュントの顔色は真っ白で、気を抜けば倒れてしまいそうな有様だった。そんな兄を横目で気にかけながら、手短に用件を伝えて通話を終えたフユトは、半ば茫然と、通路の壁に寄りかかっているシュントの傍に並ぶと、
「手伝ってもらって助かったわ」
具合が相当悪そうなことには触れず、それだけを端的に伝えた。
暴力を恐れず、殺しが残酷であればあるほど昂奮する弟と違って、同じ顔の兄の中身は繊細だった。本来はハウンドを生業にするのに向いていないのに、生真面目で責任感が強い性格が仇となって、シュントのあれこれを蝕んでいる。
ハイエナ三人の到着と入れ替わりで、双子はモーテルを後にした。シュントは外の空気を吸って、幾ばくか顔色が回復しているが、それでも表情は優れない。
「……どっかで休む?」
他意なくフユトが尋ねると、シュントは緩く首を振る。
「せっかく現場から離れてたのに、ごめんな」
やけに素直なフユトに、けれど、シュントは気を回す余裕などなかった。
こうもあっさり終わるなら、シュントの応援など頼まなければ良かったと、フユトは今になって後悔している。もっと他のやり方を探して、もっと別な算段を立てれば良かったのだ。時間は充分すぎるほどもらっていたのに、期限が迫る焦りから判断を誤ったのかも知れない。
何かを掛け違えるたび、二人の間に罅が入り、深い溝になり、やがて隔たってしまうような、寂しさと焦燥と孤独感を、フユトは受け入れられずにいる。同じ道を歩まなくても、二人で居られるならそれでいいと、どちらもそう割り切れたなら、こんなに苦い思いはしなかっただろうか。
「女からの誘いは呼び水だから、絶対にノるなって教わらなかったんだな」
獰猛に、愉しげに忠告し、対象者の襟首を掴んで室内へ引きずり込む。スタンガンの二撃目を警戒した男は身を竦ませてされるがまま、ドアが閉まる音を聞く。ゆるゆると背後を振り仰いで、室内に待ち構えていたのが、そこそこ名の売れた双子のハウンドだと気づくと、
「……そっか」
独りごちるようにぼやいて、抵抗をやめた。
フユトがコルトで脅すまでもなく、おとなしく従った男はベッドに横たわると、
「悪運が尽きるのも、早かったな」
そう言って、乾いた笑みを浮かべた。
裏稼業をしているだけあって、覚悟は決まっていたのだろう。或いは、既に伝手から、大組織子飼いのハウンドが動き出したとでも聞き及んで、半ば諦めていたのかも知れない。敵に回してはいけない男を敵にした、それが最大の過ちだ。
「安心しろよ、こっちも最大限、利用させてもらうから」
男の顔に枕を押し当て、ベッドに片膝を乗り上げたフユトが冷笑する。
「これでチャラだ」
飛び散る血と悲鳴を打ち消す枕越しに、コルトのトリガーを引いて撃ち込む。鈍い衝撃と歪な苦鳴のあと、後頭部から滲み出た鮮血が白いシーツを染め始め、絶命を確認したフユトはようやく、片膝を下ろして立ち上がる。
もう少し抵抗されるかと構えていたので、予想外に呆気なく終わった。
フユトが端末でハイエナに連絡を入れる傍ら、直接手を下したわけでもないシュントの顔色は真っ白で、気を抜けば倒れてしまいそうな有様だった。そんな兄を横目で気にかけながら、手短に用件を伝えて通話を終えたフユトは、半ば茫然と、通路の壁に寄りかかっているシュントの傍に並ぶと、
「手伝ってもらって助かったわ」
具合が相当悪そうなことには触れず、それだけを端的に伝えた。
暴力を恐れず、殺しが残酷であればあるほど昂奮する弟と違って、同じ顔の兄の中身は繊細だった。本来はハウンドを生業にするのに向いていないのに、生真面目で責任感が強い性格が仇となって、シュントのあれこれを蝕んでいる。
また
、守れない
。フユトにはどうしたって。ハイエナ三人の到着と入れ替わりで、双子はモーテルを後にした。シュントは外の空気を吸って、幾ばくか顔色が回復しているが、それでも表情は優れない。
「……どっかで休む?」
他意なくフユトが尋ねると、シュントは緩く首を振る。
「せっかく現場から離れてたのに、ごめんな」
やけに素直なフユトに、けれど、シュントは気を回す余裕などなかった。
こうもあっさり終わるなら、シュントの応援など頼まなければ良かったと、フユトは今になって後悔している。もっと他のやり方を探して、もっと別な算段を立てれば良かったのだ。時間は充分すぎるほどもらっていたのに、期限が迫る焦りから判断を誤ったのかも知れない。
何かを掛け違えるたび、二人の間に罅が入り、深い溝になり、やがて隔たってしまうような、寂しさと焦燥と孤独感を、フユトは受け入れられずにいる。同じ道を歩まなくても、二人で居られるならそれでいいと、どちらもそう割り切れたなら、こんなに苦い思いはしなかっただろうか。
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