プロローグ-2
文字数 1,464文字
中性的な容貌の少年、ルナが抱える顧客のほとんどは、その華奢な体躯に女物の下着と衣装を着せた上で
ルナは物心ついた頃から男娼をしているから、金さえもらえれば、それくらいのことは朝飯前にこなせる。男たちは女装したルナを服の上からベタベタ触り、嫌がる素振りをさせたい物好き共だから、清潔なモーテルの一室で、今夜も、客の膝に後ろ向きで無理に座らされた体裁で、女物のブラウスやタイトスカートから侵入する不埒な指を掴んで、健気に首を振ってみせるだけでいい。
「
ルナのか弱い抵抗に悦ぶ男が、むにむにと内腿を揉む。形ばかり添えられた手に促されたとばかり、短くゴツゴツした指がスカートを捲りあげてショーツに辿り着くと、デルタ地帯を押し上げる幼い隆起の形をなぞり、
「悪い子だ」
びくびくと震えるルナの耳朶を舐め、ブラの上から平らな胸を揉みしだきながら、とても嬉しそうに囁くのだ。
体の反応とは裏腹に、ルナの気持ちは醒め切っている。こんなことで興奮し、こんなことで欲望を発散し、こんなことで満たされる、顧客共の心理を侮蔑している。
「もぅ、イッちゃ……っ」
ぐちゅぐちゅとショーツが卑猥な音を立てて粘膜に擦れる。綿の下着に包まれた小振りな性器は男の手にすっぽり包まれ、軽い痛みを伴う強さで睾丸ごと揉みくちゃにされる。行為自体は侮蔑しても、その刺激は確かに、ルナを高みへと押し上げた。
絶頂と共に震える体を背中から抱きしめ、興奮しきった男の熱く、荒い息が、ルナの耳に届く。高みに達して吐精し、息を乱しながら、少年は今度こそ本気で、止まらない男の手を引き剥がしにかかる。達した直後で粘膜は敏感だから、強烈な刺激に涙を浮かべて、
「ダメ、やめて、お願い」
本気で首を振るのに、抱き竦める男には通じない。
この顧客はいつもそうだ。ルナがドライで達するまで、一晩中、手を緩めない。ひたすら捏ねられる乳頭がヒリつき、陰茎が反応しなくなるまで、延々と、地獄が続く。
「やだぁ……ッ」
殺してしまえたらいいのに、と、ルナは仄暗く思うのだ。
それから何日かして、また、あの冴えない男がルナの前に現れた。今度は、夕暮れ前の、立ちんぼも疎らな時間だった。
「──良いですよ」
ルナは男の申し出を二つ返事で受け入れた。冴えない男はとても驚いた様子で、
「君の言い値は払えないと思うけど、それでもいいのかい?」
念を押した。
ルナは頷く。
「話をするだけなんでしょう」
確認すると、男は何度も頷いて、
「もちろんだよ」
嬉しそうに笑った。
読めない名刺の代わりに、男は自分のことを話した。ヤナギという名前で、フリーでジャーナリストをやっていて、旧世界よりは衰退したメディアで社会記事を書き、細々と生計を立てているという。今はストリートと呼ばれる廃墟群を取材し、子どもの売春や人身、臓器売買の実態を明らかにして、現在の福祉制度の是非を問う記事を書こうとしているらしい。
「持てる者しか真っ当に生きていけないなんて、本来はあっちゃいけないんだ」
そう語る男の熱意を、ルナは黙って聞いていた。
「親を亡くした子どもたちが搾取されるなんて不健全だ、本来なら国家で保護すべきなんだ、ちゃんと生きていける術を教えて、危険なことをしなくてもいいんだって学ばせないと」
それが例え、男自身、まだ青いが故の熱だとしても、ルナには男の言葉の半分ほどしか理解できなくても、
「……ヤナギさんみたいな人が増えたら、僕らは少し救われるかな……」
プレイ
をするのが好きな、ある種の性癖を持つ男たちだ。ルナは物心ついた頃から男娼をしているから、金さえもらえれば、それくらいのことは朝飯前にこなせる。男たちは女装したルナを服の上からベタベタ触り、嫌がる素振りをさせたい物好き共だから、清潔なモーテルの一室で、今夜も、客の膝に後ろ向きで無理に座らされた体裁で、女物のブラウスやタイトスカートから侵入する不埒な指を掴んで、健気に首を振ってみせるだけでいい。
「
だめ
、です、そこは……」ルナのか弱い抵抗に悦ぶ男が、むにむにと内腿を揉む。形ばかり添えられた手に促されたとばかり、短くゴツゴツした指がスカートを捲りあげてショーツに辿り着くと、デルタ地帯を押し上げる幼い隆起の形をなぞり、
「悪い子だ」
びくびくと震えるルナの耳朶を舐め、ブラの上から平らな胸を揉みしだきながら、とても嬉しそうに囁くのだ。
体の反応とは裏腹に、ルナの気持ちは醒め切っている。こんなことで興奮し、こんなことで欲望を発散し、こんなことで満たされる、顧客共の心理を侮蔑している。
「もぅ、イッちゃ……っ」
ぐちゅぐちゅとショーツが卑猥な音を立てて粘膜に擦れる。綿の下着に包まれた小振りな性器は男の手にすっぽり包まれ、軽い痛みを伴う強さで睾丸ごと揉みくちゃにされる。行為自体は侮蔑しても、その刺激は確かに、ルナを高みへと押し上げた。
絶頂と共に震える体を背中から抱きしめ、興奮しきった男の熱く、荒い息が、ルナの耳に届く。高みに達して吐精し、息を乱しながら、少年は今度こそ本気で、止まらない男の手を引き剥がしにかかる。達した直後で粘膜は敏感だから、強烈な刺激に涙を浮かべて、
「ダメ、やめて、お願い」
本気で首を振るのに、抱き竦める男には通じない。
この顧客はいつもそうだ。ルナがドライで達するまで、一晩中、手を緩めない。ひたすら捏ねられる乳頭がヒリつき、陰茎が反応しなくなるまで、延々と、地獄が続く。
「やだぁ……ッ」
殺してしまえたらいいのに、と、ルナは仄暗く思うのだ。
それから何日かして、また、あの冴えない男がルナの前に現れた。今度は、夕暮れ前の、立ちんぼも疎らな時間だった。
「──良いですよ」
ルナは男の申し出を二つ返事で受け入れた。冴えない男はとても驚いた様子で、
「君の言い値は払えないと思うけど、それでもいいのかい?」
念を押した。
ルナは頷く。
「話をするだけなんでしょう」
確認すると、男は何度も頷いて、
「もちろんだよ」
嬉しそうに笑った。
読めない名刺の代わりに、男は自分のことを話した。ヤナギという名前で、フリーでジャーナリストをやっていて、旧世界よりは衰退したメディアで社会記事を書き、細々と生計を立てているという。今はストリートと呼ばれる廃墟群を取材し、子どもの売春や人身、臓器売買の実態を明らかにして、現在の福祉制度の是非を問う記事を書こうとしているらしい。
「持てる者しか真っ当に生きていけないなんて、本来はあっちゃいけないんだ」
そう語る男の熱意を、ルナは黙って聞いていた。
「親を亡くした子どもたちが搾取されるなんて不健全だ、本来なら国家で保護すべきなんだ、ちゃんと生きていける術を教えて、危険なことをしなくてもいいんだって学ばせないと」
それが例え、男自身、まだ青いが故の熱だとしても、ルナには男の言葉の半分ほどしか理解できなくても、
「……ヤナギさんみたいな人が増えたら、僕らは少し救われるかな……」
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