三章-4
文字数 1,513文字
「……はぁ……」
フユトが露骨に、しかも大きく溜息をつくのは、これで三度目だ。少し後ろを歩くシュントは敢えて理由を聞かない。
少女から男に繋ぎを取り、どうにか呼び出して、指定されたモーテルへと向かう道すがらだ。朝、銃器の最終点検をするフユトの表情が優れないことには気づいていたが、理由を聞いてほしそうなオーラは、ずっと黙殺している。
珍しく現場まで同行するシュントの冷たい態度に、
「少しは気にしろよ」
フユトが口を尖らすように拗ねるので、
「仕事の手順だけ考えてる」
シュントは切り捨てる。
「冷てーなァ、兄貴なのに」
仕事に向けて神経を尖らせれば尖らせるほど、フユトの軽口が増えることは、充分に知っている。シュントは弟と真逆で、口が重くなる。
モーテルの一室に二人で入室した途端、
「あの孫娘に変に気に入られてんだけど、どうしたらいい?」
ダブルベッドに腰掛けて、フユトが上目遣いに聞く。瓜二つの三白眼で言われても、可愛げは全くない。
兄の気を引きたいだけの告白に、シュントは大袈裟なほど嘆息して、
「あと五年ばかり待って、貰われてやったらどうだ」
ドア口の壁に寄りかかりながら答えると、フユトの小さな舌打ちが聞こえた。
「興味ねーよ」
おもしろくなさそうに、ふいっと顔を逸らすので、シュントは僅かに苦笑する。
フユトがシュントに求める態度や反応はわかっていた。もっと素直に言えばいいのに、いつも遠回しに催促する。
バチバチ、と音を立てて、左手に握られたスタンガンの動作確認をするシュントを、フユトが振り向く。
「──来たな」
刹那、獰猛な光を宿すフユトの目線と視線を交わして、シュントも息を詰める。
分厚いドアの向こうから、微かに足音がする。
このモーテルのドアは外開きだ。シュントは壁際に息を潜めて気配を消し、迎えるフユトはベッドの枕元のコントローラーで照明を全て落とす。昼下がりの外はまだ明るいため、目隠しの木製ドアがつけられた窓の隙間から、僅かに零れる光で、室内は仄暗く、目を凝らせばどうにか見える程度まで光量を絞る。
ノックが鳴ると同時、フロントからの内線が着信を告げる。連れと部屋で待ち合わせとでも言ってから来たのだろう。手馴れている。二コールで応えたフユトは、オートロックの解錠を了承し、コルトのセーフティを外す。
喉が無性に渇く。
異様に用心深い男を誘い出すのに、更に二週間も時間を要していた。一ヶ月以内には結果を出すと伝えていたのに、期限は数日、過ぎてしまっている。額から脳天を一発、と決めていたが、果たして、フユトにはそれだけで止まれると思わなかったし、苛立ち紛れに全弾を撃ち込んで蜂の巣にする自信のほうが強い。
殺したあとはどうしても構わない、という総帥の確認と承諾を得て、掃除役のハイエナも近くに待機している。何なら銃口を口腔に突っ込んで脅したまま、目の前で解体させてもいい。思いながら、フユトは乾いた下唇を舐める。
オートロックが解錠されてから、何かを躊躇う間が僅かに空いた。焦れたフユトが動き出さないことを願いつつ、シュントは傍らのドアノブを見つめる。ゆっくりとそれが周り、外に開いたら、最大出力の護身用具を突き出して終わりだ。
静かに、ドアノブが回った。何かを探るような慎重な動きでドアが外に開かれ、零れた外の光から間隙を的確に読み、さっと突き出した左手に手応えを得て、スイッチを入れる。壮絶な火花の音とくぐもった呻き声に、シュントは機敏に動いて、ドアを中から外へ蹴り開けた。
フユトが露骨に、しかも大きく溜息をつくのは、これで三度目だ。少し後ろを歩くシュントは敢えて理由を聞かない。
少女から男に繋ぎを取り、どうにか呼び出して、指定されたモーテルへと向かう道すがらだ。朝、銃器の最終点検をするフユトの表情が優れないことには気づいていたが、理由を聞いてほしそうなオーラは、ずっと黙殺している。
珍しく現場まで同行するシュントの冷たい態度に、
「少しは気にしろよ」
フユトが口を尖らすように拗ねるので、
「仕事の手順だけ考えてる」
シュントは切り捨てる。
「冷てーなァ、兄貴なのに」
仕事に向けて神経を尖らせれば尖らせるほど、フユトの軽口が増えることは、充分に知っている。シュントは弟と真逆で、口が重くなる。
モーテルの一室に二人で入室した途端、
「あの孫娘に変に気に入られてんだけど、どうしたらいい?」
ダブルベッドに腰掛けて、フユトが上目遣いに聞く。瓜二つの三白眼で言われても、可愛げは全くない。
兄の気を引きたいだけの告白に、シュントは大袈裟なほど嘆息して、
「あと五年ばかり待って、貰われてやったらどうだ」
ドア口の壁に寄りかかりながら答えると、フユトの小さな舌打ちが聞こえた。
「興味ねーよ」
おもしろくなさそうに、ふいっと顔を逸らすので、シュントは僅かに苦笑する。
フユトがシュントに求める態度や反応はわかっていた。もっと素直に言えばいいのに、いつも遠回しに催促する。
これが一人になったとき
、どうなるだろう
、とシュントは考えて、心臓を引き裂かれるような痛みを覚え、やめた。今更
、そんな感情は欺瞞だ
。バチバチ、と音を立てて、左手に握られたスタンガンの動作確認をするシュントを、フユトが振り向く。
「──来たな」
刹那、獰猛な光を宿すフユトの目線と視線を交わして、シュントも息を詰める。
分厚いドアの向こうから、微かに足音がする。
このモーテルのドアは外開きだ。シュントは壁際に息を潜めて気配を消し、迎えるフユトはベッドの枕元のコントローラーで照明を全て落とす。昼下がりの外はまだ明るいため、目隠しの木製ドアがつけられた窓の隙間から、僅かに零れる光で、室内は仄暗く、目を凝らせばどうにか見える程度まで光量を絞る。
ノックが鳴ると同時、フロントからの内線が着信を告げる。連れと部屋で待ち合わせとでも言ってから来たのだろう。手馴れている。二コールで応えたフユトは、オートロックの解錠を了承し、コルトのセーフティを外す。
喉が無性に渇く。
異様に用心深い男を誘い出すのに、更に二週間も時間を要していた。一ヶ月以内には結果を出すと伝えていたのに、期限は数日、過ぎてしまっている。額から脳天を一発、と決めていたが、果たして、フユトにはそれだけで止まれると思わなかったし、苛立ち紛れに全弾を撃ち込んで蜂の巣にする自信のほうが強い。
殺したあとはどうしても構わない、という総帥の確認と承諾を得て、掃除役のハイエナも近くに待機している。何なら銃口を口腔に突っ込んで脅したまま、目の前で解体させてもいい。思いながら、フユトは乾いた下唇を舐める。
オートロックが解錠されてから、何かを躊躇う間が僅かに空いた。焦れたフユトが動き出さないことを願いつつ、シュントは傍らのドアノブを見つめる。ゆっくりとそれが周り、外に開いたら、最大出力の護身用具を突き出して終わりだ。
静かに、ドアノブが回った。何かを探るような慎重な動きでドアが外に開かれ、零れた外の光から間隙を的確に読み、さっと突き出した左手に手応えを得て、スイッチを入れる。壮絶な火花の音とくぐもった呻き声に、シュントは機敏に動いて、ドアを中から外へ蹴り開けた。
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