四章-5
文字数 1,596文字
唇が合わさって舌を捩じ込まれる。上顎のざらついた粘膜をなぞられ、ぞくっとして、思わず鼻から息が抜ける。肩にしがみつくルナを嘲笑うように、怯える舌に熱い舌が絡まり、フユトの口腔に誘われ、舌先を甘く食まれ、吸われて、力が抜けた。
後ろ頭を大きな手で支えられながら、ソファに押し倒される。一度解けた目交いを深追いするように、フユトが唇を塞ぐから、ルナは上衣を握りしめて縋るので精一杯だ。
脊髄が痺れていく。唇が、舌が、指が、熱持つ体の輪郭を辿るたび、ルナの存在が夜気と明確に隔てられるようで、感覚が研ぎ澄まされていく。
こんな感覚は知らない。怖くなって首を振るルナを宥めるように、首筋を下へと降りていった唇が瞼に触れ、額に触れ、自然に溢れた涙の跡を優しくなぞるから、ルナは、きつく閉じていた目をやんわりと開く。
もっと乱暴に、直接的な刺激しか与えられない行為なら慣れているから対応も出来るのに、これではまるで、墜とすようだ。甘い愛撫と慎重な前戯だけで酔い痴れそうになる。フユトの瞳の奥は確かにギラついて、情欲が蜷局を巻いているはずなのに、劣情はおくびにも出さない。
声が出る。男娼の経験が長いルナが、しかし、自分でも初めて聞く、甲高い嬌声。こんなのは自分じゃないと顔を逸らし、顔を隠し、唇を噛むたび、これもお前だと教え込む指が的確に、ルナの粘膜を撫でて弱点を抉る。
視界がチカチカしていた。小さい漣はやがて小波となり、そして大波に変わって、ルナの全てを攫っていこうとする。しがみついた背中は汗ばんで、確かに昂奮を伝えるのに、フユトの獣性はいっかな出てくる気配がない。
「ぁ……」
潤滑剤を纏った指が抜けて、喪失感に声が漏れ出る。薄っすら開いたルナの目を覗き込むフユトは確かに雄の顔をしていて、その欲に濡れた双眸に映る、しとどに蕩けた自分の表情を認識して、頬が熱くなるのを実感する。
「イイ顔してんな」
フユトがからかうように囁いた。
「……だって、こんなの、知らない……」
何をされても慣れていると思っていたのに、ルナの羞恥は燃えるばかりで、収まることを知らない。射精しなくても、触れられれば触れられるだけ過敏になって、更に欲しくなる感覚があるなんて、誰も教えてくれなかった。
言い訳のように両腕で蕩ける目元を隠しながら答えると、
「へばるなよ」
フユトが獰猛に嗤う気配がするから、腕を除けて顔を上げる。
ルナはすぐに上下の衣服を剥ぎ取られて丸裸にされていたから、うっかり忘れていたものの、フユトはまだ半裸だったことを思い出して、
「……ッ」
背徳の期待に息を呑む。
ソファを降りたルナは、ボトムを寛げただけのフユトの前に跪き、しっかり育ちきった熱源にチロチロと、拙く、ぎこちなく舌先を這わす。顧客から求められたことが少ない上、フユトには一度、無理に喉奥まで犯された恐怖から、どうしても口淫だけは苦手だ。それでも懸命に裏筋を唇で辿り、固く尖らせた舌先でなぞり、鈴口に滲む塩味の体液をひと舐めすると、フユトの指が耳朶に触れてくすぐる。ルナが心地よさそうに目を細めるのを見て取って、耳朶から髪に移った手に、意図せず体を竦めてしまった。
ルナの緊張に気づいたのか、或いは気づいても気にしていないのか、フユトの表情は変わらなかった。押さえつけるのではなく、添えるように頭へと置かれた手が、子どもをあやすように、懸命な努力を労うように撫でるから、ルナは、体の端々から全ての細胞がグズグズに形を失い、溶け出してしまいそうな錯覚に陥る。
泉のように湧き出す唾液でいっぱいの口腔に、ぱくりと尖端を咥えて唇で挟んだまま、雁首の外周をじっくり辿るように舌を回すと、
「……一回、奥、挿れて」
焦れたフユトが切なげに言うから、
「絶対に、突かないで下さいね……?」
口を離して念押ししてから、要望通り、根元付近まで一息に取り込んだ。
後ろ頭を大きな手で支えられながら、ソファに押し倒される。一度解けた目交いを深追いするように、フユトが唇を塞ぐから、ルナは上衣を握りしめて縋るので精一杯だ。
脊髄が痺れていく。唇が、舌が、指が、熱持つ体の輪郭を辿るたび、ルナの存在が夜気と明確に隔てられるようで、感覚が研ぎ澄まされていく。
こんな感覚は知らない。怖くなって首を振るルナを宥めるように、首筋を下へと降りていった唇が瞼に触れ、額に触れ、自然に溢れた涙の跡を優しくなぞるから、ルナは、きつく閉じていた目をやんわりと開く。
もっと乱暴に、直接的な刺激しか与えられない行為なら慣れているから対応も出来るのに、これではまるで、墜とすようだ。甘い愛撫と慎重な前戯だけで酔い痴れそうになる。フユトの瞳の奥は確かにギラついて、情欲が蜷局を巻いているはずなのに、劣情はおくびにも出さない。
声が出る。男娼の経験が長いルナが、しかし、自分でも初めて聞く、甲高い嬌声。こんなのは自分じゃないと顔を逸らし、顔を隠し、唇を噛むたび、これもお前だと教え込む指が的確に、ルナの粘膜を撫でて弱点を抉る。
視界がチカチカしていた。小さい漣はやがて小波となり、そして大波に変わって、ルナの全てを攫っていこうとする。しがみついた背中は汗ばんで、確かに昂奮を伝えるのに、フユトの獣性はいっかな出てくる気配がない。
「ぁ……」
潤滑剤を纏った指が抜けて、喪失感に声が漏れ出る。薄っすら開いたルナの目を覗き込むフユトは確かに雄の顔をしていて、その欲に濡れた双眸に映る、しとどに蕩けた自分の表情を認識して、頬が熱くなるのを実感する。
「イイ顔してんな」
フユトがからかうように囁いた。
「……だって、こんなの、知らない……」
何をされても慣れていると思っていたのに、ルナの羞恥は燃えるばかりで、収まることを知らない。射精しなくても、触れられれば触れられるだけ過敏になって、更に欲しくなる感覚があるなんて、誰も教えてくれなかった。
言い訳のように両腕で蕩ける目元を隠しながら答えると、
「へばるなよ」
フユトが獰猛に嗤う気配がするから、腕を除けて顔を上げる。
ルナはすぐに上下の衣服を剥ぎ取られて丸裸にされていたから、うっかり忘れていたものの、フユトはまだ半裸だったことを思い出して、
「……ッ」
背徳の期待に息を呑む。
ソファを降りたルナは、ボトムを寛げただけのフユトの前に跪き、しっかり育ちきった熱源にチロチロと、拙く、ぎこちなく舌先を這わす。顧客から求められたことが少ない上、フユトには一度、無理に喉奥まで犯された恐怖から、どうしても口淫だけは苦手だ。それでも懸命に裏筋を唇で辿り、固く尖らせた舌先でなぞり、鈴口に滲む塩味の体液をひと舐めすると、フユトの指が耳朶に触れてくすぐる。ルナが心地よさそうに目を細めるのを見て取って、耳朶から髪に移った手に、意図せず体を竦めてしまった。
ルナの緊張に気づいたのか、或いは気づいても気にしていないのか、フユトの表情は変わらなかった。押さえつけるのではなく、添えるように頭へと置かれた手が、子どもをあやすように、懸命な努力を労うように撫でるから、ルナは、体の端々から全ての細胞がグズグズに形を失い、溶け出してしまいそうな錯覚に陥る。
泉のように湧き出す唾液でいっぱいの口腔に、ぱくりと尖端を咥えて唇で挟んだまま、雁首の外周をじっくり辿るように舌を回すと、
「……一回、奥、挿れて」
焦れたフユトが切なげに言うから、
「絶対に、突かないで下さいね……?」
口を離して念押ししてから、要望通り、根元付近まで一息に取り込んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)