第18話
文字数 1,484文字
「ちょっと待て!」
ぎょろ目をキラリと光らせ、矢吹が声を張りあげた。
「それが、たとえ小西のライターだとしてもだ。それのどこに不都合な真実があるっていうんだ」
どこに不都合な真実――あえて、そう矢吹に言われたものだから、居合わせた刑事のほとんどが、すぐにはどう答えていいかわからず、思わず口をつぐんでしまった。
「警部、実は、それがあるんですよ」
自信ありげに、岩本がドヤ顔を見せたと同時に、ふたたび、会議室のドアがせわしなく開いて、ひとりの刑事が慌ただしく駆け込んできた。
「ガンさん! ウラ、取れましたよ!!」
「と、とれたか! でかした、神田」と岩本が飛び上がらんばかりに言って、破顔一笑した。
「ちっ、いったい、なにがどうしたって言うんだよ、岩本」
舌打ち交じりの強い口調で、矢吹が言った。
蚊帳の外に置かれたことが、よほど悔しかったらしい。いささか自意識過剰気味の矢吹は、何にせよ、自分が座の中心にいないと、こうして、すぐに不機嫌になってしまうきらいがある。
それを承知の岩本は額に滲んだ汗をハンカチで拭いつつ、苦笑交じりに説明する。
「この小西という男は、なかなかのやり手なんです。なにせ局の常務の娘を嫁にしているんですから。それがあって、まだ35才にもかかわらずプロデューサーになっているんです」
「出世意欲が旺盛な男なんだな」
山縣管理官が、口をはさむ。
「ええ、でも中には、それが気に食わない者もいるんですよ。小西の同期だというディレクターも、そのひとりでしてね。彼が耳打ちしてくれたんです。小西は、新橋のガールズバーの女ともできてる、ってね」
おいおい――会議室が一瞬、騒然となる。
なんともあきれたプレーボーイじゃねぇか。会議室に居合わせた刑事のほとんどの顔に、そう書いてあった。
「ということは、神田! その女と会って話を聞いてきたっていうのか」
驚いた顔で、矢吹が言う。
「はい」
頬をほころばせながら、神田はうなずいて、こうつづけた。
「めぐみという名の女の子なんですがね。小西とは一年前に男女の関係になったらしいんです。なんでも、テレビに出してやる、って甘いことばを言われて。ですが、近ごろ、薄々感づいたらしいんです。小西のやつ、わたしのからだ欲しくてそう言ったんじゃないか、って。ですから、あっさりと話してくれましたよ」
「なるほどな……で、そのめぐみはなんと」
腕を組んだ矢吹は、目をつむって尋ねた。
「彼女が言うんです。小西が、こう言ったと。うちの局の昼のワイドショーは俺がプロデューサーだ。だから、だれを出演させるかは俺に権限がある。実をいうと、あの番組に出演している近藤結花という芸能レポーターも、俺の女なんだ。あんなふうに、だからめぐみちゃんもテレビに出演さえてやれるんだよ、っていうふうに」
「ふ、ふざけんな!」
神田のことばを遮るように、矢吹がすごい形相で目を見開いて、吐き捨てた。
「職権乱用もはなはだしい野郎だぜ、まったく!!」
矢吹の、この迫力に気圧されて、会議室が一瞬、シーンとなる。
「それで……」
沈黙を破って、山縣が先をうながした。
「は、はい。それで、その誘い文句に負けて、彼女、からだをゆるしちゃったらしいんです。ある日、一戦交えたあとに、小西が眠りに落ちたことがあるっていうんです。そのとき、小西が寝言をつぶやいたらしいんですね」
「寝言⁈ なんて?」
ドスの利いた低い声で、矢吹が訊く。
わずかな間のあとで、神田が、おもむろに口を開いた。
「あの女、いつか殺してやる。俺をやするなんて、絶対にゆるさんからな、そんなふうにです……」
つづく
ぎょろ目をキラリと光らせ、矢吹が声を張りあげた。
「それが、たとえ小西のライターだとしてもだ。それのどこに不都合な真実があるっていうんだ」
どこに不都合な真実――あえて、そう矢吹に言われたものだから、居合わせた刑事のほとんどが、すぐにはどう答えていいかわからず、思わず口をつぐんでしまった。
「警部、実は、それがあるんですよ」
自信ありげに、岩本がドヤ顔を見せたと同時に、ふたたび、会議室のドアがせわしなく開いて、ひとりの刑事が慌ただしく駆け込んできた。
「ガンさん! ウラ、取れましたよ!!」
「と、とれたか! でかした、神田」と岩本が飛び上がらんばかりに言って、破顔一笑した。
「ちっ、いったい、なにがどうしたって言うんだよ、岩本」
舌打ち交じりの強い口調で、矢吹が言った。
蚊帳の外に置かれたことが、よほど悔しかったらしい。いささか自意識過剰気味の矢吹は、何にせよ、自分が座の中心にいないと、こうして、すぐに不機嫌になってしまうきらいがある。
それを承知の岩本は額に滲んだ汗をハンカチで拭いつつ、苦笑交じりに説明する。
「この小西という男は、なかなかのやり手なんです。なにせ局の常務の娘を嫁にしているんですから。それがあって、まだ35才にもかかわらずプロデューサーになっているんです」
「出世意欲が旺盛な男なんだな」
山縣管理官が、口をはさむ。
「ええ、でも中には、それが気に食わない者もいるんですよ。小西の同期だというディレクターも、そのひとりでしてね。彼が耳打ちしてくれたんです。小西は、新橋のガールズバーの女ともできてる、ってね」
おいおい――会議室が一瞬、騒然となる。
なんともあきれたプレーボーイじゃねぇか。会議室に居合わせた刑事のほとんどの顔に、そう書いてあった。
「ということは、神田! その女と会って話を聞いてきたっていうのか」
驚いた顔で、矢吹が言う。
「はい」
頬をほころばせながら、神田はうなずいて、こうつづけた。
「めぐみという名の女の子なんですがね。小西とは一年前に男女の関係になったらしいんです。なんでも、テレビに出してやる、って甘いことばを言われて。ですが、近ごろ、薄々感づいたらしいんです。小西のやつ、わたしのからだ欲しくてそう言ったんじゃないか、って。ですから、あっさりと話してくれましたよ」
「なるほどな……で、そのめぐみはなんと」
腕を組んだ矢吹は、目をつむって尋ねた。
「彼女が言うんです。小西が、こう言ったと。うちの局の昼のワイドショーは俺がプロデューサーだ。だから、だれを出演させるかは俺に権限がある。実をいうと、あの番組に出演している近藤結花という芸能レポーターも、俺の女なんだ。あんなふうに、だからめぐみちゃんもテレビに出演さえてやれるんだよ、っていうふうに」
「ふ、ふざけんな!」
神田のことばを遮るように、矢吹がすごい形相で目を見開いて、吐き捨てた。
「職権乱用もはなはだしい野郎だぜ、まったく!!」
矢吹の、この迫力に気圧されて、会議室が一瞬、シーンとなる。
「それで……」
沈黙を破って、山縣が先をうながした。
「は、はい。それで、その誘い文句に負けて、彼女、からだをゆるしちゃったらしいんです。ある日、一戦交えたあとに、小西が眠りに落ちたことがあるっていうんです。そのとき、小西が寝言をつぶやいたらしいんですね」
「寝言⁈ なんて?」
ドスの利いた低い声で、矢吹が訊く。
わずかな間のあとで、神田が、おもむろに口を開いた。
「あの女、いつか殺してやる。俺をやするなんて、絶対にゆるさんからな、そんなふうにです……」
つづく