第12話

文字数 1,258文字


 午後八時すぎ――。
 聞き込みやら捜査から戻ってきた刑事たちが、捜査本部の会議室に一堂に会している。
 彼らのその表情には、きょうの捜査の疲れなどは微塵も窺えない。むしろ、一刻も早く、犯人を捕まえたい、そういった闘志がみなぎっている。
「えー、それでは、捜査会議をはじめます」
 いつものように、司会進行を務める宇喜多主任が口を切る。
「まずはじめにガイシャの家宅捜索を起こった、わたくし宇喜田班からの報告です」 
 宇喜多はそう言うと、パワーポイントを起動し、一枚の写真をスクリーン上に浮き上がらせた。 
「えー、これは、ガイシャが握っていたジッポのライターです。指紋は二つ。ひとつはガイシャのものです。それから、もうひとつのほうはいまのところまだ身元は判明していません。次に、この画像を見てください」 
 そう言って、宇喜多は、スクリーンの画像を替えた。
「これは、ガイシャ宅の壁の画像です。このように、壁は真っ白です。煙草を吸っている方ならおわかりだと思うのですが、煙草を吹かしていると、どうしても壁や白いレースのカーテンなどは黄ばみがちです。ですが、壁にもレースのカーテンにも一切黄ばみは見られません。あ、それとですね、科捜研の森村女史によりますと、煙草臭も一切感じられないとのことです――」 
「――ということは、あれか」と矢吹が宇喜多の言葉をさえぎるように言った。「ガイシャは部屋で煙草を吸っていないということだな」 
「ええ、そういうことになるます」と宇喜多はうなずき、ことばをつづける。
「さきほど、ガイシャの勤め先に聞き込みに行った小川刑事にも確認したのですが、ガイシャが仕事場で煙草を吸っているのを見かけた者はいないようです」 
「だとしたら」と矢吹が言う。「彼女が握っていたライターは、ダイニングメッセージという可能性が大だな」とすこぶる興奮気味に。 
「ええ、たしかに」と宇喜多が相槌を打った、そのときだった――。


 だしぬけに、会議室のドアがノックされ、女性警察官が「ちょっとよろしいでしょうか」といかにも申し訳なさそうな声で言って、ちょこんと顔を出した。
「なんだ」
 宇喜多はぶっきらぼうに言って、彼女に鋭い一瞥をくれる。
「そ、それが、会議中なのでムリだと申し上げたのですが……それでも、どうしても今回の事件のことで責任者の方に話しがしたい、そうおっしゃられるもんですから……」
 ほんとうに、ムリだと申し上げたんですが、どうしたもんでしょうね、という感じで、女性警察官は上目づかいで、宇喜多を見る。
 宇喜多は、その視線をかわすと、山懸管理官にそれを転じた。
 ほう、今回の事件のことでか。
 山縣は内心つぶやき、矢吹に、どうする? と目で訊いた。 
 もしかしたら、渡りに船かも、そんな感じで矢吹がうなずくので、山懸はわが意を得たとばかりに、ニコッと微笑んだ。 これで、話はきまった。
「わかった、会おう。至急、部屋を用意して、そこにお連れしろ」
 そう山縣は女性警察官に告げて、矢吹と一緒に会議室を慌ただしく出ていった。


つづく
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