第17話

文字数 1,230文字

 
 その日のよる――。
 割り当てられた持ち場で聞き込みをしてきた刑事らが、額に汗しながら、三々五々捜査本部に戻ってきた。
「みなさん、お疲れ様です。では、さっそく、捜査会議をはじめます」 
 いつものように、宇喜多主任を司会進行役にして会議がはじまった。
「まずは、わたくしから」ということで、宇喜多が本日の聞き込みの様子を披露した。
 彼によると、恵風涼が住んでいるマンションを管理している不動産屋から、そこの防犯カメラの映像を借りて、彼女とつき合っているらしい男の、その素性を割り出すことに努めているとのことだった。
 宇喜多の報告が終わるや否や、こんな声が会議室のあちらこちらから、飛んできた。
「そんな、しちめんどくさいことなんてしてないで、恵風涼を参考人として出頭させちゃえばいいんだ」
 というような声が……。
 だが、これに対して矢吹が首を縦に振ることはなかった。その理由を、矢吹が毅然とした顔と口調で説明した。
「もしもその男が、この事件になんら関係のない者だったらどうする。きっと警察に対する世間の批判は半端ないぞ。なにしろ、恵風涼は国民的女優だからな。それに、最近、警察の不祥事が相次いでいる。それだけに、事を無闇にせくわけにはいかないんだ」
 これを聞いていた山縣が、「矢吹の言う通りだ」とうなずいて、こうつづけた。
「急いては事を仕損じる、ということばがある。ここは、慎重にいくべきだろうな」 
 山縣のこの一言で、会議は別の班の報告に移った。
 宇喜多に指名された岩本が起立して、報告をはじめた。

 
「えー、では、次に岩本班」
 「はい、わたしはガイシャが出演していたワイドショーを放送しているテレビ局に行き、いろいろと話を聞いてきました。そこで、かなりの成果がありました。まず、こちらに戻ってきて早々、プロデューサーの小西という男の指紋を鑑識に調べるように指示を出しました」
「プロデューサーの指紋を鑑識に?」
 けげんそうな顔で、矢吹が言った。
「はい。それというのも、警部から、以前安河内先生が住んでいた部屋をガイシャが借りた経緯をプロデューサーに聞いてこいという指示があったものですから、小西を尋ねました。収録の合間に煙草を吹かしながらだったらいい、というんもんですから、幸いわたくしは喫煙者なもんで、むしろ、これ幸いとばかりに缶コーヒーを飲みながら話を聞いたんです。そのとき、小西のライターがジッポだったんです。おまけにですよ、小西とガイシャは出来てるともっぱら噂だということを耳にしたんです」
「え!」
「な、なんだと」
 会議室内が、にわかに色めき立つ。
「だ、だとしたら、あのライターは小西のモノっていう可能性があるってことか⁈」
 するとそのとき、会議室のドアがいきなり開いて、鑑識の新田が慌てふためいて部屋に飛び込んできた。
「ビ、ビンゴです! 岩本刑事」
「なに! やっぱりライターの指紋は小西のものだったのか!!」
「は、はい! 刑事、これはお手柄ですよ」


つづく
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