第11話

文字数 690文字

 

 その日のランチどき、山本浩子は勤務する出版社のほど近くにある、老舗の蕎麦屋にいた。 
 店の壁に設えてある液晶テレビは、ちょうど、お昼のニュースを伝えている。浩子の食事が終わったころ、番組は関東圏のニュースに変わっていた。お茶を啜りながら、それを見るともなく観ていた浩子は思わず「あ!」と小さく声をあげてしまった。   
 なぜなら、画面の中のニュースキャスターがしかつめらしい顔と口調で、こう言ったからだ。
「先日、葛西臨海公園内で発見された遺体の身元が判明したことが、私どもの警察の取材で判明しました。亡くなられたのは、近藤結花さん……」 
 え! う、うそ!!
 ――思わず浩子は目を丸くして、絶句した。 
 
 
「わたし……しばらく呆然として口も利けませんでした」 
 蕎麦屋を出た浩子は、おぼつかない足取りで社に戻った。 
 やがて、やっとのことで自分を取り戻した浩子は「こうしてはいらっれないわ」と、慌てて、広島の安河内蓮に電話を入れた。 
「え! ゆ、結花さんが……」 
 蓮も浩子同様に、思わず絶句。 
 しばらくして、ハッとわれに返った蓮は「これ、わたしのせいかも……」と、ポツリつぶやいた。
 え⁈ 浩子はけげんそうな顔で訊いた。
「先生、それ、どういう意味ですか?」 
「くわしいことは、そっちに行って話すわ」 
「え、先生、いまから東京に来られるんですか?」 
「ええ、行くわ」
 蓮はきっぱりとした口調で言った。
「わたしには行かなければならない理由があるのよ……」
「り、理由ですか?」
「そう、結花さんの無念を晴らさなければならないという、そんな理由がわたしにはあるのよ……」



つづく  


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