シニストラリの女ひとり旅〜ふれあい編〜

文字数 1,967文字

時を遡ること一週間ほど前……。
アローハ〜
はい、というわけでね。色魔学者・シニストラリちゃんの帝都行き女ひとり旅。


今日はハコーネ・ユモートの町にやって参りました。

古くから帝国の関所が置かれ、拷問の名所として知られるここハコーネ・ユモート。かつて拷問にも使われたという秘湯「色情の湯」とは一体いかなる温泉なのか?
あいにくの悪天候ですが、雨の露天風呂も乙なもの。観光に研究に、しっかり楽しんでいこうと思います。
……アロハは雨に合わないな。こっちでいこ。
ああっ、鬱陶しい天気ですわ……。


こんな雨の中、わたくしを小一時間も待たせるなんて。局の担当者も良い度胸でいらっしゃいますことね。

おっしゃる通りにございます、アニー様。
じいや、待ち合わせはここで合ってますのよね?
はい、ここハコーネ駅前広場でと取り決めていらっしゃいます。
遅いですわねえ……。
お、この広場の中央に立つ石像は。


これが有名な「黄金デビル像」ね。

ん……?


あのメガネ、どこかで見たような……?

民話によれば、「黄金の呪い」をかけられたハコーネ王が妻を黄金に変えて売り飛ばそうとした結果、逆に黄金の脚で蹴られて死んだという。その場面をかたどった像ね。


近年「暴力ヒロインは時代遅れ」と苦情が寄せられて、物議をかもしたというけれど……。

うわ、一人でブツブツ言ってる。近寄らんとこ。
さて、まずは郷土資料館で「はしご」の手がかりを探しましょう。路線馬車はあっちかしら。
行ったか……。
アニー様、いったん喫茶店にお入りになってはいかがでしょう。約束の時刻までまだ30分もありますし……。
何を言いますの! このわたくしと待ち合わせをする以上、最低でも一時間前に着いておくのがマナーというものですわ。このままここで待って、担当者が現れたら文句を言ってやります。


全く、これだからお役所の仕事は……。

小雨そぼ降る中、シニストラリは路線馬車に乗り込み目的地へ向かった。
ここがハコーネの郷土資料館ね。
旅に訪れたら、まず寄っておきたいのが郷土資料館。研究者としてはもちろん、観光客としても外せない。


地味に思えるかもしれないけど、展示には市民のために工夫が凝らされていたり、逆に全く武骨だったりして町ごとの個性が味わえるわ。

さて、この町の資料館は……?
 
うわ、ピカール!?
 
……じゃないわ、これは蝋人形ね。


なになに、「拷問術の歴史」。「拷問術の歴史は古く、民話によれば聖ダンスタンが術を用いて悪魔を従えたことが拷問の始まりとされ……」

この人形は、民話に出てくる拷問官の再現なのね。


ピカールに似すぎでしょ、超ウケル。

  
ルイズちゃんみたいなのもいるわ。ゲラゲラ。
パネルの説明は……「魔女について」。


「魔女は人間に似ていますが、知能が低く、先のことを考える能力がありません。感覚も人間とは大きく異なり、痛みを感じないとされています」

うーん、これはちょっと内容が古いわね。「魔女に痛覚がない」という説はここ十年で否定されているわ。


世間的にはまだ信じられてるけど。多分、魔女との戦乱が続いてるうちはアップデートされないわね……。

 
 
 
あはは、いっぱいいる。サル山みたい。
「魔女と拷問術」。


「魔女には痛覚がないのに、なぜ拷問術が作用するのでしょうか。それは、魔女の心の特殊な構造によるのです。


 魔女の心は身体と密接にリンクしており、ツボを押すように刺激を与えることで心の形を変えることができます。この性質は、魔女同士の縄張り争いや格付けのために発達してきたと考えられています」

これもやや古いわね。間違ってはないけど、もっと魔女の文化的・社会的な面について書いてほしい。


これからの悪魔学には、魔女の文化や宗教について知ることが必要だわ。実際、ルイズちゃんも「はしご」という概念を伝承していた。ああいうデータをもっと……。

順路はこちらでございます。
うわしゃべったぁぁあ!
展示室2では「雄牛の皮」像をご覧いただけます。


1F休憩スペースではお土産品を販売しております。営業時間は、あさ10時から夕方17時……

しゃ、しゃべる蝋人形か。変なところに凝ってるな……。
そう、「雄牛の皮」像ね。それを見に来たのよ。


「雄牛の皮」像は古代の拷問器具とされているけど、使用方法は分かっていない。来歴にも不明な点が多い。もしかしたら「はしご」の一つかも。


そう考えて、ここハコーネに寄ったってわけ。

展示室2ってこっちよね。

あれ……? 何もないけど……?

パネルだけある。


「『雄牛の皮』像


 真鍮で作られた、中が空洞の像。古代の拷問器具と考えられているが、由来や製法には不明な点が多く……」

やっぱりここで合ってるみたい。でも、肝心の像がないわね。


あ、丁度いいところに職員の人が。

…………。
あのー、すいません。「雄牛の皮」像ってここで見られるんですよね?
む……?
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登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

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