シニストラリの女ひとり旅〜ふれあい編〜
文字数 1,967文字
時を遡ること一週間ほど前……。
民話によれば、「黄金の呪い」をかけられたハコーネ王が妻を黄金に変えて売り飛ばそうとした結果、逆に黄金の脚で蹴られて死んだという。その場面をかたどった像ね。
近年「暴力ヒロインは時代遅れ」と苦情が寄せられて、物議をかもしたというけれど……。
何を言いますの! このわたくしと待ち合わせをする以上、最低でも一時間前に着いておくのがマナーというものですわ。このままここで待って、担当者が現れたら文句を言ってやります。
全く、これだからお役所の仕事は……。
小雨そぼ降る中、シニストラリは路線馬車に乗り込み目的地へ向かった。
旅に訪れたら、まず寄っておきたいのが郷土資料館。研究者としてはもちろん、観光客としても外せない。
地味に思えるかもしれないけど、展示には市民のために工夫が凝らされていたり、逆に全く武骨だったりして町ごとの個性が味わえるわ。
「魔女と拷問術」。
「魔女には痛覚がないのに、なぜ拷問術が作用するのでしょうか。それは、魔女の心の特殊な構造によるのです。
魔女の心は身体と密接にリンクしており、ツボを押すように刺激を与えることで心の形を変えることができます。この性質は、魔女同士の縄張り争いや格付けのために発達してきたと考えられています」
これもやや古いわね。間違ってはないけど、もっと魔女の文化的・社会的な面について書いてほしい。
これからの悪魔学には、魔女の文化や宗教について知ることが必要だわ。実際、ルイズちゃんも「はしご」という概念を伝承していた。ああいうデータをもっと……。
そう、「雄牛の皮」像ね。それを見に来たのよ。
「雄牛の皮」像は古代の拷問器具とされているけど、使用方法は分かっていない。来歴にも不明な点が多い。もしかしたら「はしご」の一つかも。
そう考えて、ここハコーネに寄ったってわけ。