２歳から始める結婚相談
文字数 1,362文字
お前、あたしの婿になりなさい。はい決まり。
婿だぁ？ お前、捕まっちゃってんだぞ？ 明日には家畜市場に並ぶ予定なんだぞ。
お前が逃がすから平気だよ。
あたしはルイズ・ル・ランカー・ド・ラ・モルグルドゥイン、偉大なる魔女王の娘。……６０番目の、だけどな。
あたしの婿は次代の魔女王になる。つまりお前は、全ての魔女を統べる魔女の王になる。
寝言は寝て言うんだな。
さあ、おれはタイムカードを通して帰るんだ。入口の横の打刻機械にカードを通して、自分の部屋に帰って風呂に入って寝るんだ。そんで……
明日は早出して、朝イチでお前の拷問だ。
それから？
……遅れてる分が片付いたら、出荷手続きをしてから次の拷問へ。だけど炎上案件がもう一つあるから、多分そっちに引っ張られてまた遅れるだろう。今月はずっと残業だな。
そんで？
今月いっぱいで辞めるやつがいるから、それの引継ぎにも追われてる。来月はもっと忙しくなるだろう。来月はもっと睡眠不足になる……
そんで？
……お前、もう分かってんだろ。お前がゆっくり眠れる日なんて来ないし、お前はあたしと同じくらい捕まっちゃってる状況なんだよ。
あたしはお前を逃がしてやろうってんだ。
……言っとくが、おれは一拷問官に過ぎん。おれがお前の縄を解いてやったところで、お前はこの建物を出ることも出来んよ。
この建物にはセキュリティ専門の拷問官が結界をかけていて、魔女は出られないし出ようとしたら警備員が飛んでくる。おれの権限で出来ることは無いのだよ。
それに出荷作業が済めば、おれはお前の行き先を知ることも出来ない。不正防止のためにそういうシステムになってるんだ。
そーかな？
お前、拷問官ならあたしにバックドアを仕込むことが出来るな。
お前をプログラミングする時にか？ それだけで違法だぞ。
くききっ。
要するに、あたしを従順にするための拷問をしている最中に、もう一つこっそりコードを仕込んでおくのさ。その状態で検品を通しておいて、出荷してから潜ませておいたコードを作動させる。それで家畜用のプログラムを破壊しちまえば、あたしはいつでも逃げ出せるってわけだ。
お前、そんなことがバレたらおれはクビに……。っていうか逮捕され……
誰かおるの？
！
！
およ、ピカール。あんたまだ残ってんだ、てっきり灯りの消し忘れかと。
あ、ああ、シニストラリ。今帰ろうとしてたんだ。
拷問課は大変だねぇ。ま、研究課の方も大概だけどね。どう、捗ってる？
見ての通りだよ。そっちはどう？ 新しいサンプルが入ったって朝礼で聞いたけど。
ふひひー。あれすっごいんだよぉ、悪魔学界をひっくり返す発見になるかもしれないよ。
知ってるかな、これ最近の発表なんだけど、魔女って潜在的にいくつかのタイプに分かれるらしいんだよねぇ。そんで血統によってね、今まで知られてなかった能力があるらしくてね、そのための条件がねぇ……。
おっと、足止めしちゃ悪いね。
私は空気が読めるオタク。また明日ねぇ～。
ああ、お疲れ。また明日。
……。行ったか。
どお？ 決心ついた？
つくかっ。
……と、とにかく。おれは辞めたいのは山々だが、だからといってお前の言うような危険行為に手を染める必要はない。運が無かったと思って諦めてくれ。
じゃあな。
あ、おい。
……行っちまった。
んー、どうしたもんかな。
……おや、タイムカードを忘れてるな……
