悪魔学者は結婚式に呼ばれたい

文字数 1,915文字

でさでさ、その時どんな感じだった!? ねえ!?
……ちょっと、そこのあなた方。

うるさ過ぎやしませんか? ここは酒場ですが、大勢の人が利用しているという意味では公共の場なのですよ。
あ、すみません。
それに、幼児の手の届くところにアルコールを置くのはいただけませんわ。誤って舐めでもして、お子さんの健やかな成長が阻害されたらどうするおつもりです?
そっちのあなたは服装が淫らです。下賤な酒場とはいえマナーはお守りあそばせ。
はぁ。
……怒られちゃった。私もまだまだコミュ力が足りないねぇ。
いや、声量はともかく服装は普通だと思うけど……。まあ、神経質な人なんだろう。
あたしが飲んでるって知ったら卒倒するんじゃねーか?
どこまで話したっけ。

そう、「伝説級のレア拷問器具」とやらを使った時の話だっけな。
おれら拷問官の仕事は、様々な拷問器具を使って魔女の行動をコントロールすることだ。身体のツボを突いて魔力の流れをうまく調整してやれば、魔女を服従させることができる。

だからあの時も、まずは全身をリラックスさせるツボを打ったんだ。そしたらいきなり爆発した。
ありゃスゴかったな、身体にビリビリって来てバーンっていうの? やばかった!
爆発というか、周囲の空気が弾ける感じだったな。あれは何なんだ?
フムフムー。多分それはねぇ、拷問がルイズちゃんの眠れるパワーを呼び覚ましたんだよ。論文では「レアな器具でレアな個体を拷問すると、魔力の鍵みたいなものが開く」って説があった。

ルイズちゃんが魔女王の娘だから、その血統に反応してパワーが覚醒したんだ!
確かに、あれから身体の調子が良くなった気がするぜ。

でもなー、伝説っていうにはショボい気がするんだけどな。力は強くなってないし、あの爆発も起こそうと思って起こせるわけじゃないみたいだし……。
恐らく単体では効果が弱いんだ。その伝説級の器具、いくつあるって言ってたっけ?
魔女の童話では、「はしご」と呼ばれるレア拷問器具が七個あって、人間の国に散らばってると聞いた。
童話なんだ。
きっと、それを全部集めたら相乗効果で超パワーになるんだよ! よく言うじゃん、「人生はかけ算だ……」
「元がゼロなら意味がない」
あたしはゼロじゃねーし。
うはぁあ、すごいすごい! 大発見だよ!!

さっそく論文にまとめて発表しよう。一旦オフィスに戻って資料を整理しないと……!
いやいや待って待って、おれら戻ったら捕まるんだって。
いーじゃん別に。

ルイズちゃんは貴重なサンプルだから研究課に移して閉じ込めておくとして、ピカールはいなくても論文書けるよぉ。勿論「はしご」は戻してもらって。
おいっ、そんな事させんぞ! あたしらは魔女王の座を獲るんだ!
じゃかあしい、学問の方が大事!
いーじゃない、捕まって懲役50年くらいになったって。悠久の時を経て進歩してきた学問のスケールからしたらそんなもん一瞬よ。個人の生なんて所詮は大海の一滴よ。
学問は人類全体の「意思」の表れであって、個を超越しているわ。どんな研究者もその大きな流れの中で生まれ、研究し、死んでいく。だからピカールが懲役50年になって滅びていくとしても、それは織り込み済みのこと。気にすることはないのよ。
(そういえばこういうヤツだった……。)
いやっ、でもさ! おれ、こいつの婿になるんだよ。おれがいないと駄目なんじゃないかなあ!

なんでだよー。
ほらアレ、婿ってことは、結婚。

シニストラリさん、確か専門は性魔学でしょ? 魔女の結婚のこと知りたくない?
むっ。
け、結婚。

……結婚ってことは、結婚式……! って、あるの……?
一応あらぁな。
結婚式となると、独特の風習とか秘密の儀式とか、そういうのもあったり……!?
よそは知らねえけど、ウチは舞踏会とかやるな。

魔女の結婚式は、新たな魔女王が位を継ぐ時のみ開かれるんだ。それによって人間の婿が魔女王となり、その妻が王妃になる。普通は3~40年に一度だな。

ぶ、舞踏! 衣装や様式の地域差……動きに組み込まれた象徴表現……け、研究テーマがざくざく……
見たい!!
それにはさ? とりあえずおれらを泳がせて、「はしご」っていうの? 集めさせるのが早道じゃない?
そ、そしたら結婚式、呼んでくれる……?
ええよ。
OK、OK。交渉成立な。
ふひひー。

あ、でもオフィスにはちょっと戻って確認したいな。実は今日、もう一つ別のサンプルが届くことになってるんだ。それも希少な拷問器具なんだけど。

もしかして、それも「はしご」の一つなのか……!?
可能性としては。
一方、離れた座席では。
待ちくたびれましてよ。爆発事故の件、どういう状況なの? いえ、現場を直接見たいわ。案内役を付けてもらえる?
は、仰せの通りに。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色