戦場と牛とバーベキュー
文字数 2,171文字
バシッ！ バシッ！！
いだだだ！
うう、なにすんだぁ！
ブワッ
おっと。
……まだ動けるのか。さっきから動作系を書き換えようとしているのに……
セキュリティが固い。拷問吏の腕は確かだな。
…………。
誉められてるよぉ。あなたすごいんだね。
くそっ、おい亀甲縛り！ お前なんで人間についてんだよ！
へへ、あなたが言う？
（説得は無駄だ、恐らくこいつは戦闘用にプログラムされてるんだろう……）
だが、これならどうかな！
グサッ グサッ
グサッ！
はぅう！！
！
おお……！ うずくまるフリして、自分の靴からクギを抜き取っていたのか。
さよう、外部からの命令が書き込まれるスペースと他の制御系との間を遮断した！
プログラムの中身が何であれ、これで正常には機能しなくなるはず。
あつつつ……。
あれ、ここは誰？ 私はどこ？
……なんちゃって。
ギリッ！
うぐっ！
ざーんねん、見当外れみたいだね。
バカな、遮断は確かに通っているのに……！
ということは、こいつまさか……。
……自分の意思で人間に味方してんのか！
えへへへ。意思だなんてこそばゆい。
道徳的必然ってやつだよぉ！
どっ、どぉ？？
へへ。自らを律して情欲を抑え、より公明正大なる道徳的価値のために働くこと……。そこにあるとは思わないかね？
何が？
愛がだよ。
こ、こいつ……。
変態だ！！
……ハッキングを試みるなら、命令の新規書き込みで行くべきだったな。俺はこいつの性格には手を加えてない。
ま、魔女とは思えない価値観だ……。ちょっとおかしいんじゃないの？
失敬な。
へへ、でも、あなたがたのような野蛮人をこそ、愛あるまなざしで見守って行かないとね。それが義務ってものと違うかな。
この……ハレンチ！ こっちを見るな！
何と言おうと逃がさないよ。
あなたがたには訓育が必要なんだ！
ドドドドド……
ゥオーッ……
わぁ、なんだなんだ！？
うひゃー！！
む？
ドドドドドド
ブモーッ！！
イーヤッホーーーぅ！！
火、火の波がこっちに向かってくる！！
いや、牛だ！ 奴ら、牛の群れに火をくくりつけて放しやがった！
こういうのって夜戦でやるやつじゃないのか！？
うわ、馬車に火がついてる！
ヒヒーン！！
ドタバタドタ……
馬を暴れさせるなー！
そいつは無理じゃねえかな。
へへ、会戦じゃなくて逃げるだけだからな。混乱を起こせたら何でもいいのよん。
とにかく手はず通りだ！ あとは各自、森に駆け込んで逃げ切れ！
ラナウェイ！
ドドドドド
ブモーッ
ヒヒヒーンッ！
おわっ！？
ぬう……！！
今だ！ 逃げるぞルイズ！
火と土埃に紛れて……。
ジャンヌの奴が作戦通りやってくれたようだ。
あちちち、馬が引きずってきた瓦礫で火だらけだ！
おのれ、奴らはどこだ！
ルイズ、もうパワー切れだろ。今度こそ「雄牛の皮」像は諦めにゃならん。
いや……。
さっき担いでみて気付いたんだが、この像、妙に軽い。
中が空洞なんじゃねえか？ ほら、腹のところが開くようになってる。
だから「雄牛の皮」なんだ。外側だけだから。
そうか。すると、何とか持っていけるかな？ 足は鈍るが頑張るところか……。
いや、いや。
この像、中に入って使うもんなんだよ、多分。牛と火を見て分かってきたぞ。
来いよ、入ってみようぜ。
ふむ……？
ミセリどこだ！？ 奴らを逃がすな！
あわわ！
ガチャン バタン！
おーい、どこだー？
あ、牛の像はあった！ 火に囲まれてるけど。
（やっぱり、大人一人がちょうど収まるサイズだ。あたしがいる分ちょっとキツイな……）
（おい、おい。ノリで入っちゃったけど、これ逃げられなくない？）
（それになんか暑くなってきたけど……）
（大丈夫。これはこういう道具なんだ）
ミセリ、いたか。奴らは？
そんなに遠くに行けるはずない。多分その辺に隠れてるんだ。
パチ ……パチ……
（あ、暑い……。というか、徐々に熱い）
（はぁ、はぁ……）
（なるほど、こりゃ蒸し焼きにする拷問器具なんだ。しかし、サウナってレベルじゃなくなってきたぞ……！）
（はぁ、はぁ、大丈夫。熱とは別に、体の奥がポカポカしてきたぞ……！）
（はぁ、はぁ、はぁ……。おお……）
うおぉおーっ！！
ブモーッ！！
！？
牛の像が……。鳴いた？
おらーっ！！
ブモーッ！！
ドカッ ドカッ ドカッ
う、うわ！ 像がこっちに駆けて来……！？？
みぎゅ！
うおーっ！！
ドカッ ドカッ ドカッ
な……何としたことだ！ これは！？
うぐっ！
な、何が起こってんのこれ？ 動いてんの！？
はぁ、はぁ。おう、動かせる！
脚のとこに触るなよ、熱で柔らかくなってっから。
奴らの仕業か！
ミセリ、像を止めろ！
アイアイ！
ゾゾゾゾゾッ
そいやーーー！
ボウンッ
火、火〜〜〜〜！！
あち、あちっ！
火炎魔法……！ まさか中にいるのか！？
ならば！ 像をブッ叩いて鼓膜を割ってくれるっ！
ヒュッ
ヒュォッ
うぉらあ！！
バッガーン！！
バラ バラ バラ バラ
うおぉぉ……！！ は、破片が！
あち、あち、像が破裂した！
ぷはっ！
あ、あまり分からんが！ この火と熱が雄牛像の力なのか！
これは「ファラリスの雄牛」ってんだ、思い出したぞ。
頭と胴体が分かれちまったけどな！
わはは、力が身に付けば像そのものはいらねぇ。記念に頭だけ頂いてこう！
に、逃がすものか…………！
あらよっ！
ボウンッ
ぐあぁあ！
ぅあぢゃーっ！！
さっきのお返しだぜ。
あーばよーっと！
な、なんかすまんな同業。
さいなら！
タッタッタッタッ……
パチ パチ パチ
