職場再襲撃

文字数 2,080文字

これは判事様、わざわざご足労いただきまして恐縮の至り……
前置きは結構。私は中央高等法院のアニー・ボゲ。あなたが拷問局の担当者?
はい、私は業務委託にて拷問関連事業を進めさせていただいております、ウィッチブリーディング&サービス社の現場リーダーです。

平たく申しますと、この現場の責任者です。
何ソレ。局は何をしているのかしら?
は、現場に関しては私どもに一任頂いておりますが、局の担当者様には情報共有を随時させて頂きました上で……
そういう問題ではありません。大事故にもかかわらず、局の担当者が不在とはどういうことかと問うているのです。危機対応の意識に欠けるのではありませんか。
は……申し訳ありません。

(俺に言われてもなあ)
それからあなた、服装が淫らじゃありませんこと?
は……?
どこが、まで言わなければなりませんか。緊急時だからこそ、どうか襟を正しゅうしてご対応あそばせ。

ともかく爆発現場を見せてもらいましょう。
はぁ。

(さっと見て帰ってほしいな……)
(ごそごそ……)
うん、セキュリティ結界は壊れたままだ。あれは専門の業者に頼まないといけないからな。たぶん明日直すつもりなんだろう。
今のところ出入りできるってこったな。
それじゃ、おれ倉庫に着替え取りに行くよ。今着てるやつ、爆発でレンガの粉だらけになっちゃったからさ。新しい拷問着をちょろまかしてこよう。
私はその間にサンプルを探しとくよ。普段の保管場所が吹っ飛んだから、研究課のほうで預かってると思う。
おらピカール、オンブは飽きたぞ。肩車しろ!
あ、腕疲れたから丁度いいわ。

しかし、乳母車かなんかが欲しくなるな~。
というかお前、これまで移動はどうしてたわけ? よちよち歩きで戦争できるの?
ふふん。あたしは何せ魔女王の娘だからな、部下に担がせてピクニック感覚よぉ。
そんなんで戦えるのか?
あたしは戦えねぇよ。

いや、もうちょっと背が伸びたら全然違ってくるし、ゆくゆく豪傑として名を馳せることになるのは間違いないとしてもだな。

今はまだ戦えないから、戦場を観ながらお茶してたわけ。じゅうたん敷かせて、サンドイッチ食べて。
まじにピクニックかよ。それで兵って言えるのか?
人間の兵士は違うのか?

あたしらはさぁ、パーッと行くのが好きなわけ。兵は自由勝手に飛び回るもんなんだけど、まあ、賑やかな戦場に自然と集まるわな。

大砲っていうの? 人間のあれさ、沢山来てると火柱とか爆煙すごくてさぁ。こっちの奴ら、わーって行ってバーッて一気に吹っ飛んだりしてんの。あれやばかったなー。
ほー。
まあ、そうしてたら人間の魔女狩り部隊が来て、ワチャワチャってなって気付いたら捕まってた感じ。
適当だなぁ。

いや、おれもいい加減な方だけどさ。そこまでじゃないかなあ。
そーか? そんな違わないと思うけど。

てか、ぶっ壊した現場に戻ってきて着替えちょろまかすヤツも大概だって。
言われてみればそうか。

いや、この拷問着わりと機能的だからさ。代わりを探すとなるとケッコー面倒臭いんだ。どのみちオフィスにもう一度来るなら、拷問着を持ってってもリスクは変わらないだろ?
くききっ。いいねいいね、その魔女と人間を合わせたみたいな考え方。やっぱ面白いよお前。
そーかな?

お、言ってるうちに倉庫に着いた。いったん降ろすぞ。

そこの棚に在庫がストックされてるはずなんだ……。
その頃、研究課のオフィスでは……
あった。多分この空樽みたいなのが届いたサンプルだわ。

でも、担いでいくのは少々しんどそうね……。
そだ、台車があったはず。あれに乗っけましょう。
誰かいますの?
!!
判事様、どうされましたか。研究科はもう全員退社してますよ。
そうなんですの? 物音が聞こえたけれど、ネズミか何かのようですわね。
すみません、衛生を改善するよう言っておきます。

さて、爆発現場は一回りしましたし、他にご覧になりたい場所はありますか?

(いい加減帰ってくれ……)
最後に、ここの制服をチェックしますわ。

事故とは直接関係ありませんけれど、風紀の緩みは心の緩み。節度ある服装が守られているかどうか、この目で確かめないことには視察をしたと言えません。
はぁ。それでしたら、倉庫の方に予備の制服があると思います……。

(昼に来て見れば済む話じゃねえか、面倒くせえなぁ~)
…………。

危なかったぁ。
って、倉庫? まずいな、そっちにはピカールたちが。
…………。
…………。
なんで見てんの?
別に見てねーよ。服、とっとと着ちまえよ。
あれ、子供服もあるぞ。誤発注かな?

せっかくだしお前これに着替えろよ、着てるやつボロボロじゃないか。
えー。別にいーよ、メンドっちいよ。
あ、一人じゃ無理か? 着せてやるから脱げよ、ほらほら。
いらねーよぉ。こら、引っ張んじゃねえよ。
おれが気になるんだよ。オンブだの肩車だのしてると臭いが……
ひゃーーーーっ!!
なっ、なっ、何ですのあなた方!!

ここで何をしてるんですかぁ!!
こ、こんな暗がりで、半裸の男女が二人っきりでいるなど……
ふ、ふ、不潔ですわ!!
……まあ、不潔な服ではあったな。ほい、着替え完了。
落ち着いてる場合じゃ。
ないみたいね
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登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

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