油注がれた者
文字数 1,924文字
万一、お前がジャンプして避けても、ガキンチョとおっさんはそうはいくまい。お前はこの剣を受けるしかないぞ。
……やってみれば良い。その瞬間に踏み込んであなたを倒す。剣が誰にも届かないうちに、一撃で沈めてしまえばいい。
大丈夫、ドニエならいける。まだ何か小細工があるとしても、周りの連中は所詮ザコ……
そういう問題じゃない。おれたちは目立つわけにはいかない、って最初に言っただろ。
このまま行くと、どっちが勝ってもただでは済まない。これ以上の騒ぎになったらダメなんだ。
んなこと言ったって、どうすんだよ?
あちらさんは「お気持ちの問題」なんだろ? 止めろと言って止めるとは思えないぞ。
? なんだその瓶?
お前がさっきぶっかけられたやつか。
おい、止めろ。あたしの頭に近付けるな。
……ど、どうする気だ? お前まさか、ちょ、待っ
出力、一時的に10馬力に引き上げ。引き上げました。
……行きますよ。
おう、さっさと来やがれ。
あたしは逃げも隠れもしねぇ…
……行かせてやれ。
「あたしを倒せたら行かせてやる」って約束だからな。一本取られたってこったぜ。
す、すみません!!
俺がおかしな瓶を持ち歩いていたばっかりに……。
わっはっは、気にすんな!
あのちびガキ、叩きのめしてはやれなかったが、まあ濡れネズミにはしてやった。あれで勘弁してやろうぜ。
瓶を売ってた奴は後でしめるがな。
さあ、水とタオル持ってきてくんねぇか。ばっちくてかなわんぜ。
ピカールてめぇ、どういうつもりだよ? 逃げれたのはいいけど、あたしにぶっかける必要なかったんじゃねえのか?
いや、必要だったよ。そこが「お気持ち」ってやつだな。
あのジャンヌとかいう奴、ファミリーのボスなんだろ。「子分がやられたら、ボスとしてカタキを打つ」ってところを見せなきゃいけないから、つっかかってきたわけだ。
だから、丸く収めるにはお前に何らかドロを付けなきゃ駄目なんだ。そうじゃなきゃ、あのまま逃がしてはくれなかったろうよ。
そ、そーなのか……?
あいつを「倒した」からあたしらの勝ちなのかと思ったけど。
そんなとんちで逃がしてくれるかよ。
仮にジャンヌを気絶させても、周りが収まらんだろう。
逆に、ドロさえ付いてれば、ジャンヌはおれらを見逃すメリットを意識する。リスクのある戦いをあれ以上しないで済むし、「自分でした約束は守る」ってところも見せられるし。
それで、落としどころに乗ってくれたわけだな。
い、いやっ。
だとしても、なんだか釈然としねぇな。最初に絡んできたのはあっちだろ。
まあ、そうだけど。その辺は土地のルールというか、おれらも分かってるわけじゃないからなぁ……。
すみません、私が考えていたのは相手を倒すことばかり……
いや、ドニエさんがあれだけ強かったから駆け引きが発生したんだ。結果的に無傷で逃げられてよかったよ。
お、川だ。ここで水浴びしていこうや。
ほらルイズ、脱がせてやるから両手上げな。
ふむ。
あの男、必死な感じでちょっと可愛かったよなあ。
ええ? 召使に戦わせて自分のガキを投げて、だらしねえ奴じゃないですか。
いやいや、結構いかれた奴だと思うよ。頭も回る感じだし。
それにちびガキと「親子」って雰囲気じゃなかったな。何か訳ありだったのかもな。
ウチにも、ああいう奴が一人欲しいなあ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)