隠し砦と悪人たち

文字数 1,907文字

時間軸は戻り、襲撃計画を練るジャンヌダルクとピカールたち。森に紛れつつ、草原のど真ん中に立つショッピングモールを見る。
あの石造りのモールが敵の拠点か。「まるで神殿」、いや「砦」ってくらいデカいな……。
ドムレミで一番デカい建物だからな。実際のところ、ありゃ要塞としても使える隠し砦だ。


大量の物資を備蓄してるし、警備の人員も一個中隊くらいの規模がある。

それって何人くらい?
100〜200人ってとこかな。
多いな。

企業が雇った傭兵に加え、国軍の兵力も配置されてるらしい。なぜか。

癒着の気配がするね。
外壁には大砲が隠されてるようだ。内部にはワナや仕掛けが無数に張り巡らされていて、送り込んだ密偵が一人も帰って来ねえ。
なにそれこわい。


ショッピングモールなんだよね???

あ、営業時間内なら普通に入れるよ。あたしたまに遊びに行くし。


でも、休業日や裏方スペースはどうなってるか全然分かんねえ。迷宮になってて妖魔が閉じ込められてるって話もある。

だから、荷がモールに運び込まれる前に襲撃しないとダメなんだ。
荷のほうはどうなってるの?
偵察によると、付近の大きい街を昨日発ったらしい。あと三日くらいでここに着くだろう。
じゃ、さっさと襲っちゃった方がいいんじゃない。
それがなぁ。輸送にもかなりの警備が当てられてて、どうにも手出しできねぇんだ。


何とかって判事の私設軍隊が警備してるらしい。

輸送中がダメ、着いてからもダメとなるとどうすりゃいいんだろ?
そこを相談したいってわけよ。まーなんか考えてちょーよ。任せるからさっ。
うーん……。
…………。
ぶーーっ。
なんだルイズ、お前まだぶーたれてるの?
別にぃ~~。


つか、お前まじにこいつらに協力すんのか?  襲うのって犯罪じゃないの?

ええ、お前そういうの気にしないんじゃないの?
そりゃあ。


気にしねえけどさ。

おれらは既に追われてる前提で動いてるし、ここで上手くやれば身分証が手に入るんだ。リスクをとる価値はあると思う。


お前、半年も歩くのやだって言ってたじゃんか。実際、歩いて移動するにも相応のリスクがあるわけだ。

そりゃあ。


やだけどさ。

それに……。シニストラリから絵はがき、来てたじゃん? 多分、その荷の中に含まれてるんだって。ほら……あれが。
わあってるよ。


ちくしょー…。

いったい何が不満なんだ?
姫様……じゃなかったルイズや、私めに……じゃなかった母さんに至らない点でも?
やきもちじゃねぇの?
や、やややきもちだぁ!?
おかしなことじゃねぇ。


幼児期の娘は父親に恋愛感情を抱いて、母親と対立するっていうじゃねえか。何とかコンプレックスってやつ。

精神分析。
だだだだ、誰が恋なんぞするかっ!


あたしらはなあ、もっとサバサバした関係なの。あくまで利害の一致から一緒にいるの。

まあ、そういう家族観もあるとは思うけどさ。


今はみんなで、襲撃に向けて気持ち高めてこうよ。高め合いたい。

おや? あそこにいるのボゲ判事じゃないか?
あ?
ほら、モールの入り口のとこ。馬車から降りたところだ。
 
 
なんだ、あれが今回の荷主なのか?  お前らの知り合いなの。
知り合いではない。


ボゲと、なんか背の高い男がいるな……。荷と一緒に来たのかな?

いやあ、荷物はまだの筈だぜ。荷主が荷を追い越して来たのか……?
あ、あのドクロ化粧の男は……!


ありゃ「魔女狩り将軍」じゃないか!

知っているのかルイズ?
知ってるも何も、前にあたしを捕まえた男だぜ!
何だって!
やっとモールに到着ですわ…。
…………。
不服そうですわね、ホプキンス?
……別にそういったことはありません。マダム。
荷を兵に任せて、私たちだけ道を急いだことが不満なのかしら。あなたとしては、警備を二手に分けたくなかったでしょうね。
……そういったことはありません。マダム。
それとも、あなたの得物をウチの兵に運ばせるのが嫌だったかしら。大事な武器ですものね?
そういったことはありません。マダム、誰が備品を運ぼうと構いませんし、我々の道中は通常装備で十分と判断しました。
ふふ。そのビジネスライクな態度、清々しくてステキですわ。


きっちり着込んだ軍服と、それを覆い隠すマントも抑制的でよろしい。地肌を晒さぬことは礼節の基本です。


ドクロの戦化粧もすばらしい。見る者に死と哀しみをイメージさせることで戦意を削ぎ、情欲を萎えさせます。まさに公の場にふさわしい貞淑のあり方、わたくしの部下に相応しい……。

はぁはぁ。
過大評価です、マダム。
うふふ。こうして道を急いだことにもワケがありましてよ。そのワケを今から見せてあげましょう。

さあ、わたくしの手を取って。モール内ではぐれたらいけませんから。

ご命令とあれば、マダム。
もちろん命令です。
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登場人物紹介

マチュラン・ピカール

種族:人間
魔女と人間が争うファンタジー世界で、拷問官としてブラック労働に従事している男。転職したいがそのアテはなく、毎日ルーチンワークで魔女を拷問している。

ルイズ

種族:魔女
強大なる魔女王の60番目の娘。2さい。権力が大好きで、次代の王妃となって世の中をほしいままにすることが夢。そのために婿を必要としている。

シニストラリ

種族:人間

ピカールの同僚の性魔学者。研究以外のことを一切気にしない変人。魔女の結婚式を自らの目で調査することが目標。

アニー・ボゲ

種族:人間
潔癖症の裁判官。みだらなコンテンツを徹底的に嫌い、あらゆる権限を行使して風紀の引き締めをはかる。しかし本人はやや露出狂ぎみ。

ジャンヌダルク

種族:人間
盗賊団の首領。部下にはベタベタに甘いが、収奪をはたらく相手に対しては残虐で血も涙もないハードヤンキー。部下からの人気は高い。

ドニエ

種族:ゴーレム
ルイズの乳母。魔法によって作られた魂なき土人形で、AIに従って冷徹かつ無感情に行動する。……はずである。

マシュー・ホプキンス

種族:人間

「魔女狩り部隊」随一の戦士にしてボゲ判事の部下。常にドクロの戦化粧を施している恐るべき男。

ミセリコルデ

種族:魔女

とくに王族とかではない魔女。亀甲縛り姿で荷馬車に囚われているところをルイズたちに見つかるが……。

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