隠し砦と悪人たち
文字数 1,907文字
時間軸は戻り、襲撃計画を練るジャンヌダルクとピカールたち。森に紛れつつ、草原のど真ん中に立つショッピングモールを見る。
あの石造りのモールが敵の拠点か。「まるで神殿」、いや「砦」ってくらいデカいな……。
ドムレミで一番デカい建物だからな。実際のところ、ありゃ要塞としても使える隠し砦だ。
大量の物資を備蓄してるし、警備の人員も一個中隊くらいの規模がある。
企業が雇った傭兵に加え、国軍の兵力も配置されてるらしい。なぜか。
外壁には大砲が隠されてるようだ。内部にはワナや仕掛けが無数に張り巡らされていて、送り込んだ密偵が一人も帰って来ねえ。
なにそれこわい。
ショッピングモールなんだよね???
あ、営業時間内なら普通に入れるよ。あたしたまに遊びに行くし。
でも、休業日や裏方スペースはどうなってるか全然分かんねえ。迷宮になってて妖魔が閉じ込められてるって話もある。
だから、荷がモールに運び込まれる前に襲撃しないとダメなんだ。
偵察によると、付近の大きい街を昨日発ったらしい。あと三日くらいでここに着くだろう。
それがなぁ。輸送にもかなりの警備が当てられてて、どうにも手出しできねぇんだ。
何とかって判事の私設軍隊が警備してるらしい。
輸送中がダメ、着いてからもダメとなるとどうすりゃいいんだろ?
そこを相談したいってわけよ。まーなんか考えてちょーよ。任せるからさっ。
別にぃ~~。
つか、お前まじにこいつらに協力すんのか? 襲うのって犯罪じゃないの?
おれらは既に追われてる前提で動いてるし、ここで上手くやれば身分証が手に入るんだ。リスクをとる価値はあると思う。
お前、半年も歩くのやだって言ってたじゃんか。実際、歩いて移動するにも相応のリスクがあるわけだ。
それに……。シニストラリから絵はがき、来てたじゃん? 多分、その荷の中に含まれてるんだって。ほら……あれが。
姫様……じゃなかったルイズや、私めに……じゃなかった母さんに至らない点でも?
おかしなことじゃねぇ。
幼児期の娘は父親に恋愛感情を抱いて、母親と対立するっていうじゃねえか。何とかコンプレックスってやつ。
だだだだ、誰が恋なんぞするかっ!
あたしらはなあ、もっとサバサバした関係なの。あくまで利害の一致から一緒にいるの。
まあ、そういう家族観もあるとは思うけどさ。
今はみんなで、襲撃に向けて気持ち高めてこうよ。高め合いたい。
ほら、モールの入り口のとこ。馬車から降りたところだ。
なんだ、あれが今回の荷主なのか? お前らの知り合いなの。
知り合いではない。
ボゲと、なんか背の高い男がいるな……。荷と一緒に来たのかな?
いやあ、荷物はまだの筈だぜ。荷主が荷を追い越して来たのか……?
あ、あのドクロ化粧の男は……!
ありゃ「魔女狩り将軍」じゃないか!
荷を兵に任せて、私たちだけ道を急いだことが不満なのかしら。あなたとしては、警備を二手に分けたくなかったでしょうね。
それとも、あなたの得物をウチの兵に運ばせるのが嫌だったかしら。大事な武器ですものね?
そういったことはありません。マダム、誰が備品を運ぼうと構いませんし、我々の道中は通常装備で十分と判断しました。
ふふ。そのビジネスライクな態度、清々しくてステキですわ。
きっちり着込んだ軍服と、それを覆い隠すマントも抑制的でよろしい。地肌を晒さぬことは礼節の基本です。
ドクロの戦化粧もすばらしい。見る者に死と哀しみをイメージさせることで戦意を削ぎ、情欲を萎えさせます。まさに公の場にふさわしい貞淑のあり方、わたくしの部下に相応しい……。
うふふ。こうして道を急いだことにもワケがありましてよ。そのワケを今から見せてあげましょう。
さあ、わたくしの手を取って。モール内ではぐれたらいけませんから。
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